2019 Fiscal Year Research-status Report
19世紀イギリス小説史の正典形成とセンセーショナリズム
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18K00383
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
永富 友海 上智大学, 文学部, 教授 (60305399)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | センセーショナリズム / リアリズム / 高級娼婦 / ヴィクトリア朝小説 / George Eliot |
Outline of Annual Research Achievements |
当研究の2年目に当たる2019年度は、①引き続きCatherine Walters(Skittles)とその周辺の人物の資料収集 ②昨年度収集した資料の分析と整理 ③ Skittlesの言説との呼応関係があると思われるGeorge Eliotの小説 Daniel Deronda の読解 ④イギリス小説史という文脈におけるGeorge Eliotの特徴についての考察をおこなった。
①については夏季、冬季、春季休暇を利用して、国内外の大学図書館およびBritish Libraryで資料収集をおこなった。特に雑誌については、センセーション・ノヴェリストであるM. E. Braddonが手掛けたBelgraviaや、その他ヴィクトリア朝研究において頻繁に取り上げられるメジャーな雑誌にあたってきた結果、期待以上の成果をあげることができなかったのが、より大衆的なThe London Journalという雑誌の存在を知り、アクセスすることができる手蔓を得られたことは大きな成果であった。②についてはBritish Library所蔵のSkittles関係の小説をPDF化してきたファイルの読解をおこなった。③④については、ヴィクトリア朝リアリズム小説の第一人者とされるGeorge Eliotの最後にして異色の小説、Daniel Derondaを構成するセンセーショナリズムの言説が、ヒロインの表象、すなわちSkittlesの影のもとにある女性としての表象と分かちがたく結びついていることを明らかにした。その成果は『英国小説研究』において発表した。一方で、George Eliotの他の異色作=非リアリズム的要素が過多な小説がセンセーショナリズムとどのような関係を取り結んでいるかを分析することによって、ヴィクトリア朝におけるセンセーショナリズムの定義を明確化する作業を続行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
資料収集に関しては国内の大学図書館(同志社女子大学、神戸大学)に夏季、冬季休暇を利用して訪問し、閲覧と複写をおこなった。また2月には、Jane Austen学会に参加し、British LibraryとLondon大学のSenate Libraryにおいて資料の閲覧、複写をおこなった。Jane Austen学会では、彼女の代表作とされる長編群ではなく、初期の習作のなかに、Austenの最大の特徴とされるリアリズムとは対極の大衆小説的要素があることを指摘する発表などから、イギリス文学史の再考につながる興味深い知見を得ることができた。
3月には新型コロナウィルスの影響で、海外の学会への参加を取り止めねばならなくなり、また東京大学が所蔵しているThe London Journal(マイクロフィルム)の集中的な調査も延期せざるを得なくなった。しかし後者に関しては、アメリカの大学図書館が一部電子化を図っており、その箇所の調査は問題なくおこなうことができた。すでに発表済みのSkittlesに関する論考をさらに深めるにあたり、文学史の正典作品にストレートな形では現れにくいSkittlesおよび高級娼婦の言説に遭遇することのできる媒体――The London Journalという、より大衆的な雑誌――という角度から切り込むことで一次資料の充実化をはかることができた。ヴィクトリア朝の階級社会の構造を読み解く新見地となりうる「高級娼婦」についての研究の成果は、今年度中に、海外の雑誌に発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
The London Journalの電子化されていない部分については、東京大学図書館が所蔵しているマイクロフィルムを借用し、調査分析をおこなう。今回はSkittlesやその他の高級娼婦という切り口から当雑誌の調査をおこなっているが、その過程で得られた発見から、当時著しい発展を遂げた雑誌と読者層との関係へと視野を広げることで、イギリス小説史のなかの重要な一角をなす活字媒体として考察を深めていきたい。
10月に開催の日本ハーディ協会でのシンポジウムの責任者を務めることになっており、George Eliotにひき続き、リアリズムとセンセーショナリズムの混交が特徴であるThomas Hardyの作品を、今年度は主に考察・分析の対象としていきたい。
新型コロナウィルスの影響が依然として予測不可能な状態にあるが、ヴィクトリア朝における「高級娼婦」とイギリス文学との関係は、海外でも手つかずの領域であることから、学会発表、ないしは学会誌への投稿に積極的に取り組み、発信に力を注ぐ一年としたい。
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Causes of Carryover |
3月には新型コロナウィルスの影響で学会参加を取り止めねばならなくなったこと、また他大での図書館調査も中止となってしまったことにより、当初考えていた支出予定に変更が生じてしまった。この調査は次年度において遂行する予定である。
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