2018 Fiscal Year Research-status Report
ディアスポラの文学──サン=ドマングからアメリカへ
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18K00384
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
庄司 宏子 成蹊大学, 文学部, 教授 (50272472)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / アメリカ-カリブ文化圏 / ハイチ革命 / 奴隷制度 / 奴隷制廃止運動 / 地下鉄道 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、グローバリゼーションの時代に移動者や越境者によって生み出される脱領土的で超国家的なディアスポラ空間において創造される文化的想像力や混成的な文化創成力を歴史的な視点から問い、文化批評を行うことを目的とする。2018年度は、Edgar Allan Poe, Michelle Cliff, Colson Whiteheadに関する研究発表や論文執筆を行った。Poe研究では、1842年の短編“The Masque of the Red Death”に描かれたProsperoの館に「赤死病」を持ち込み、人々を死に至らしめ館を崩壊させる“Red Death”という人物や伝染病の表象に、18世紀末から19世紀初頭にかけてアメリカ南部の奴隷制度を土台とするプランテーション経済や人種問題に影響を与えたハイチ革命の余波を読み取った。 ジャマイカ系アメリカ作家Cliffの研究では、1993年の小説Free Enterpriseで描いた1859年のジョン・ブラウンのハーパーズフェリー襲撃を裏で支えたアメリカからジャマイカに繋がる黒人女性のアボリショニストの創造に、国境や国民国家を超える歴史構築の可能性を論じる研究発表と論文執筆を行った。 2016年に発表され、ピュリッツァー賞や全米図書賞を受賞したWhiteheadのThe Underground Railroadは、近年のアメリカで遺跡発掘や記念碑の樹立など「地下鉄道ブーム」が起こっている時代に書かれた話題作である。「地下鉄道」とは19世紀に、奴隷制の南部から自由州やカナダへと逃亡する奴隷を援助する秘密の援助活動を指す言葉であるが、その確たる実像ははっきりせず、善意の白人による英雄的活動をして神話化される傾向にある。Whiteheadの地下鉄道神話をめぐるアメリカの歴史構築に対する批判的なメッセージを読み取る講演と論文執筆を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度は、本研究が扱うテーマや目指す方向性から、研究発表(国際学会2回)、講演1回、研究書の出版(編著1冊、共著2冊)と、おおむね順調な研究活動を行うことができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が目指すところは、アメリカ文学、日本文学など文学研究を国家単位で扱う国民国家と文学の関係を問い直すことである。現代のグローバリゼーションの時代が顕現させる人やモノや情報の移動の現象は、16世紀に始まる大西洋奴隷貿易の時代から存在しており、国境を越えた人や情報のネットワークから生み出される文化的現象はとうてい国民国家の単位で論じきれるものではない。文学的想像力は国境を越えて生み出され、共有されるものであり、そこに残された記憶や形象に新しい文学研究を切り開く可能性がある。今後は国境を超えて存在する吸血鬼やゾンビといった文学的想像力を問い、そうした文学表象とアメリカスの奴隷制度や人種関係との関わりを現代アメリカを代表する作家Colson WhiteheadのZone Oneなどを中心に考察したいと思っている。
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Causes of Carryover |
B-Aの131円については、次年度の研究助成金で有効に活用したいと考えている。
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