2019 Fiscal Year Research-status Report
Study on the representation of visual images in Shakespeare's plays
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18K00390
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
冬木 ひろみ 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10229106)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | シェイクスピア / 視覚表象 / 仮面劇 / マニエリスム |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度からのシェイクスピアの視覚表象に関するリサーチをさらに進めるため、8月から9月にかけて渡英し、大英図書館やCambridge図書館などで資料検索・調査を行った。本年度の研究の焦点は1600年以降の劇におけるシェイクスピアの絵画的な手法の変化を追うことであるが、多岐にわたる素材からシェイクスピアの絵画的源泉を明らかにするStuart SillersやJohn Doeblerなどによる有益な先行研究を多く入手し、それを基にさらにシェイクスピアの筆致の変容を辿るべく調査・分析した。ただし、1600年寸前の1599年に上演されたAs You Like Itに関しては、視覚面からの論文は少ないのだが、エクフラシスと考えられる表現から、後期の劇に特徴的なイリュージョン(一種の錯覚を起こさせる描き方)を示唆するものまでが存在することがわかった。この劇に関する分析は本年度論文として発表した。 さらに、劇作家ベン・ジョンソンの仮面劇における絵画的装置と劇構造がどの程度シェイクスピアへ影響を与えたかについて資料の収集と分析も行った。合わせてジョンソンの仮面劇で舞台装置を作ったイニゴ・ジョーンズの遠近法による装飾的な舞台装置のデザインについての詳細をBritish Heritage誌などを閲覧し、ベン・ジョンソンの仮面劇での使い方についても可能な範囲で調査をした。現在の分析からは、シェイクスピアが仮面劇を念頭に置きつつ、それとは本質的に異なるパラドックス的、あるいはマニエリスム的と言える歪みやひねりを極めて多く後期の劇に用いていることがわかってきた。 また、エンブレムの専門家である成城大学・松田美作子教授を招聘し、講演会を開催した。その結果、エンブレムと宗教との関係も明示して頂くことができ、大きな収穫を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
エクフラシス的な表現とエンブレムに関する文献の多くはすでに入手し分析を行った。また、マニエリスムと文学との関連についての文献の大部分も入手・分析したため、シェイクスピアと絵画との関係を探る上で必要な基礎的文献はほぼ把握できたと言える。また、仮面劇に関しては、ベン・ジョンソンに対する通常のアプローチだけでなく、イニゴ・ジョーンズのデザインとその装飾性が当時のイングランドでどのように受け止められたのかについてもかなり資料を収集することができた。また、これはもう少し調査が必要だと考えているが、宗教面から偶像破壊の舞台への影響についても、シェイクスピアと結びつけることが可能な資料・論文も発見することができた。プロテスタントが大きな力を持ってきた時代を生きたシェイクスピアの宗教的信条がどのようであったかは明瞭でないが、少なくとも視覚面からは、シェイクスピアは通常はそれとわからないような巧妙な筆致で、聖画、カトリック的祈りや儀式などを描写する場面を挿入していることが、これまでの指摘以上に多いことがわかってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、エクフラシスからマニエリスムへとシェイクスピアの筆致が変化していったことをテクストと文化面および宗教面から実証的に示し、論文として発表する予定である。また、その中で本研究が強調したい点は、言語でしか表さなかった視覚的場面を、言語をすべて与えない、すなわち舞台の演技と若干の小道具などで表すという試みを後期の劇で行うようになっていったのではないかという点である。これについては、演劇界のみならず、社会・文化の変化をシェイクスピア自身の筆致がいかに吸収し、即応していったのかを明確にすることが必要である。劇作家の筆致の変化に関し、視覚表象自体についての研究ではないが、劇作のプロセスに関するGordon McMullanのShakespeare and the Idea of Late Writingという優れた著書を一つの指標として、視覚面の筆致の変容を探り、これまでの研究の最終的な成果へと結びつけたい。 なお、最終年度に講演会かシンポジウムも開催する予定ではあったが、コロナ禍により海外からの招聘は難しくなりそうであるため、国内の研究者の講演を企画・開催したいと考えている。
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Causes of Carryover |
海外から研究者を招聘する予定であったが、先方の都合により次年度となったため、未使用額が生じた。来年度に講演会、もしくはシンポジウムを開催して使用する予定。
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