2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on the representation of visual images in Shakespeare's plays
Project/Area Number |
18K00390
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
冬木 ひろみ 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10229106)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | シェイクスピア / マニエリスム / ロマンス劇 / エクフラシス |
Outline of Annual Research Achievements |
シェイクスピアの絵画的表象については、状況描写を目に見えるかのように描くエクフラシスの手法が『ハムレット』以降は少なくなり、ねじれや歪みを伴った言語的な表出方が増えていることをテクストから確認していった。マニエリスムの手法については古くはRene Hocke、また現代ではJean-Pierre Maquerlotの著書が出色であるが、少なくともMaquerlotはシェイクスピアの後期の劇にはマニエリスム的な描写が見られないとしている。しかしながら、Peter Langの著書でも示唆されているが、ロマンス劇と呼ばれる後期の劇、特に『シンベリン』と『冬物語』には、神話をねじった形の、絵画で言えばミケランジェロの手法に近い劇的状況の描き方があることがテクストの比較分析により一層明確になってきた。その筆致としては、当時の知識階級の観客にも耳から理解しにくかったと推測されるほどの難解でねじれを伴ったものとなっており、完全な文章として終わらない箇所も増えている。さらに、詳細に絵画的な描写をする箇所も『シンベリン』などでは存在するものの、『冬物語』『テンペスト』さらに『二人の貴公子』では、恐らくは役者の演技が補うことを想定した、言語で描ききらない箇所も散見されることがわかってきた。これはGordon McMullanがShakespeare and the Idea of Late Writingにおいて指摘した描写法の推移とも重なるところであり、シェイクスピアの筆致の変化がとりわけ絵画的な表象法に大きく関わっていることが明らかになった。なお、後期の劇についての研究結果の論文は2021年度に活字化される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年はコロナ禍により計画していた英国での資料収集ができず、また国際シンポジウムも開催できなかったため、大きな進展まではゆかず、主に書籍のリサーチと分析にとどまった。ただ、実績報告に記したように、シェイクスピアの絵画的手法の変化が『ハムレット』頃から変化をし出したことがどのような影響によるものかが、テクスト、同時代の仮面劇の影響、さらには宗教的な観点からのローマン・カトリックに特有な描写の存在を総合的に考察してゆくことにより次第に明らかになってきた。本研究課題の当初の目的である、劇の執筆過程における絵画的な描出法の変容を分析し明らかにすることにより、シェイクスピアがその劇作過程で何を重要視し、何を捨象しようとしていったかという本質に迫ることが可能であることがわかってきた。しかしながら、これを活字化することが2020年度中にはできなかったため、最終年度に論文として発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
シェイクスピアの劇的過程の絵画的描写の推移については、主だった劇の分析によりその変容を明確にすることがほぼできた。今後の課題としては、昨年度も触れたことではあるが、同時代のベン・ジョンソンによる仮面劇の視覚を強調した舞台の影響は大きいであろうし、仮面劇には特に大きな力をもったと通常考えられている国王ジェイムズの影をどの程度シェイクスピアの劇に見ることができるかについては、さらに分析をしてゆきたいと思っている。また、昨年度に引き続き宗教的な観点から、偶像破壊と舞台との関係を論じた書籍もかなり収集できたので、この点から特に1603年のジェイムズ王即位以降の劇についてさらなる分析・検討を行ってゆく予定である。 2021年度の活動としては、7月には国際シェイクスピア学会での発表(オンライン)も決まっているため、学会後に論文化してゆく予定である。また、オンラインを中心とした研究会・講演会も開催する予定である。 最終年度としては、上記のように2021年度に活字化する予定の後期の劇に限定した論文とともに、本研究の集大成に当たる全体を見通したシェイクスピアの視覚的な描写法の推移を明らかにする論文を執筆・出版する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、英国への渡航ができなかったことと、海外から招聘する予定であった講師が来日できなくなったため、次年度に使用額が生じることになった。2021年度にはまだ海外渡航は不可能かもしれないため、海外から可能な限りの書籍を収集し、またオンラインでの講演会と研究会を複数回開催する予定である。
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Remarks |
英国バーミンガム大学、およびバーミンガム大学大学院シェイクスピア研究所との共同研究の状況を3回に分けて早稲田大学が作成してくれたもの。
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Research Products
(2 results)