2022 Fiscal Year Annual Research Report
Study on the representation of visual images in Shakespeare's plays
Project/Area Number |
18K00390
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
冬木 ひろみ 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (10229106)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | パラドックス / マニエリスム / 『リア王』 / 後期の劇 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は大英図書館にて資料の収集を行い、当時の視覚に関わる資料および国内で入手しにくい大著Dark Lanternなどの現代の批評の後半を確認し解読することができた。さらに9月にバーミンガム大学と共同で開催した翻訳に関する国際学会や国内のシェイクスピア学会での発表の際に、シェイクスピアの筆致の変遷について研究者たちと意見交換ができたことも大きな収穫であった。論文としては『リア王』における視覚表象の特異性についてパラドックスを中心に執筆し活字化した。『リア王』では視覚に関する表現がとりわけ多いが、それらが見ることを逆説的に捉えるパラドックスとして表現され、さらに特徴的なのはそれらが人間の視覚の脆弱性だけでなく矛盾を孕んだマニエリスム的な表象となっていることを示した。また、最後の場面で娘の亡骸を抱くリアの図はピエタ像の逆であることは指摘されてはいるが、視覚表象の視点から見ればマニエリスムの図として描かれていることは明らかである。 最後に研究期間全体における本課題の成果の概観をしておきたい。これまでの論文において1600年前後および後期のシェイクスピア劇に見られる視覚表象の手法を分析していった結果、劇作家の手法は言葉で絵を描くかのようなエクフラシス的描写から次第に難解で歪み・ねじれを伴ったマニエリスム的な筆致が多くなってゆくことを示した。ただしシェイクスピアの視覚表象の手法の変容は、これまで指摘されてきたベン・ジョンソンの仮面劇などの影響だけでなく、それ以上の比重でシェイクスピア自身の筆致が視覚重視へ、つまりセリフのない舞台上の表現を入れ込むことへとシフトしていったことがあげられる。『リア王』にはその芽生えがあり、さらに当時の宗教的な面からの偶像崇拝に対する規制の中でスリリングに「見せる場面」を現出させる『冬物語』へと繋がってゆくことについては、書籍出版に向けてまとめつつある。
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Research Products
(3 results)