2018 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Amerasians in Asian American Drama
Project/Area Number |
18K00395
|
Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
古木 圭子 京都学園大学, 経済経営学部, 教授 (80259738)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | アメラジアン / エスニック演劇 / ベリナ・ハス・ヒューストン / ハワイローカル演劇 / Kumu Kahua Theatre |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主たる目的は、アメリカにおける混血人種の研究史を踏まえた上で、20世紀および21世紀のアジア系アメリカ演劇およびアメリカ演劇史全般における「アメラジアン」(アジア人とアメリカ人の混血)の要素を考察し、アジア系、エスニックおよびマイノリティのアメリカ演劇の再定義を行うことである。 2018年度は、主たる研究内容として、みずからを「アメラジアン」の劇作家と宣言するベリナ・ハス・ヒューストン(1957- ) の戯曲研究を行った。主な研究実績としては、2018年度6月に日本演劇学会大会において、「ベリナ・ハス・ヒューストンの戯曲にみる多文化多人種の象徴としての「茶」の役割」という題目で研究発表を行い、ヒューストンのTea(1984)およびA Spot of Bother (2015)における多文化多人種の象徴としての茶の劇的要素について考察した。その議論において、A Spot of Botherは、混血人種と未婚の母への偏見を乗り越えて自立の道を切り開く母娘の連帯を描き、Teaは二重のマイノリティとして偏見に耐える戦争花嫁の苦悩と闘いを描く作品であることを分析したうえで、混血人種をポジティブに捉え、そのハイブリディティの可能性を開拓するヒューストンの両戯曲は、アジア系アメリカ演劇の流れを変える力を持っているという結論を導き出した。 さらに、2018年度には、英米文化学会の分科会である「アジアパシフィックの劇場文化分科会」にメンバーとして加わり、アメリカ西海岸およびハワイの劇場文化についての研究を進めてきている。本分科会においては、2018年9月の英米文化学会大会において、1971年の設立以来、ハワイの「ローカル演劇」の上演を積極的に進めてきたKumu Kahua Theatreの歴史と意義、および本劇団から誕生したEdward Sakamotoの功績について発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書において主たる研究内容として掲げたベリナ・ハス・ヒューストンの戯曲研究については、2018年6月の研究発表において、ある一定の成果をまとめることができた。 ヒューストンは、その代表作Tea において、戦争花嫁たちの内的葛藤を象徴する劇的要素として日本茶を用いている。穏やかな癒しの時間を与える茶はしかし、提供までに時間と神経を使い、湯の温度や茶葉の量で微妙な味の違いを生み出すことから、戦争花嫁たちの人生における波風を内包し、「動揺を呼び起こす」要素と描写される。一方、A Spot of Botherにおいては、混血の主人公マナーリとインドからイギリスへ移住した母親の連帯を「紅茶」が象徴する。母親アーシャの経営する紅茶店は、マナーリがみずからの混血性を受け入れる舞台であり、母娘が「アジア系女性」としてイギリスで「生き残る」手段であり、彼女らの自立への道筋を示すものである。茶葉から一杯のミルクティーを、手間をかけて準備する過程は、ある国から別の国へと移住し、別の人種と結びつき、混血人種が生まれ育ってゆく過程と重なる。茶の味は見た目には明確ではないが、抽出時間やブレンドの比率で大きく変化するものであり、イギリスにおける紅茶の文化を見直すことは、多文化多人種の社会を再考することにもつながる。以上の点から、ヒューストンの戯曲における多文化多人種の象徴としての「茶」の劇的要素について考察を試みた。 また、ヒューストンが提唱する「エスニック演劇」および演劇における実験性との関連から、2018年度は、ハワイにおけるローカル演劇についての研究を進めているところである。本年度は主に、ハワイのKumu Kahua Theatreから活躍を始め、ハワイローカル演劇の流れをアメリカ本土にまで広めた功績のあるエドワード・サカモトの戯曲を研究し、英米文化学会の分科会において2度研究発表を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては、引き続き、ベリナ・ハス・ヒューストンが描く「場所」と人種の問題を考察する予定である。ヒューストンは、アメリカへの移住前の日本人家族、アメリカに住む戦争花嫁、異人種夫婦の妻および混血女性をその戯曲の主人公として描いてきた。また、比較的最近の戯曲であるA Spot of Botherに描かれるように、彼女の戯曲においては、アメリカは、男性の逃亡と家族からの離脱という意味において断続性を表すことがある。以上のような観点から本研究では、ヒューストンが描くアメリカ、イギリス、日本という「場所」と人種性の関連を探ることとする。さらに、「場所」(ローカリティ)という観点から、ヒューストンの戯曲とハワイのローカル演劇の比較を行うことも計画している。 本研究においてはさらに、ヒューストンと日本の関係についても調査を進める計画である。彼女の戯曲においては、たとえばTea, Kokoro (1994), Calling Aphrodite (2003), Calligraphy (2010) のように、日本を舞台にしたものや日本の伝統、慣習を題材にした作品が多くみられる。そのために、アジア系およびアメラジアンの劇作家の戯曲が多く上演されるニューヨークやアメリカ西海岸の劇場の調査、劇作家本人へのインタビューなどを行い、アメラジアンの劇作家の戯曲上演における問題点や今後の課題について調査を進める。さらに、両劇作家を日本へ招聘し、公開講演会、シンポジウムを行う計画をしている。応募者が事務局長を務めるアジア系アメリカ文学研究会を通じて、劇作家本人との招聘の方法は検討済みであり、企画に関わることができる学会員も多数在籍している。本研究の成果は、日本アメリカ演劇学会、日本演劇学会、アジア系アメリカ文学研究会などにおいて研究発表を行い、成果を論文にまとめて各学会誌に投稿する予定である。
|
Causes of Carryover |
2018年度は、アメリカ合衆国において、アジア系アメリカ演劇およびアメラジアンの作家の戯曲研究の準備のための調査を行う計画をしていた。当初はニューヨークのNew York Public Libraryの演劇パフォーミングアーツ図書館分館、およびオフ・ブロードウェイの演劇調査を行う予定であった。しかし、英米文化学会の分科会「アジアパシフィックの劇場文化」に参加することとなり、2021年度の共著の出版に向けて、急遽ハワイの劇場文化、およびハワイのローカル演劇の調査研究を進める必要性が生じた。 またハワイの劇場調査が、「エスニック演劇」、「ローカル演劇」という観点から、本研究の主たる目的である「アメラジアン」の演劇研究と密接に関係していると考えられることから、ハワイにおける劇場および演劇調査が急遽必要であると判断し、ハワイへの出張を実施することとなった。そのため、ニューヨークへの出張に比較して、旅費及び宿泊費が大幅に削減されることとなり、次年度使用額が生じた。2019年度には、ニューヨークおよびハワイへの再度の出張を予定していることから、この次年度使用額を活用し、さらに調査を進めることができると考えている。
|
Research Products
(7 results)