2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study of Amerasians in Asian American Drama
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18K00395
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Research Institution | Kyoto University of Advanced Science |
Principal Investigator |
古木 圭子 京都先端科学大学, 経済経営学部, 教授 (80259738)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アメラジアン / エスニシティ / 演劇におけるローカリティ / Kumu Kahua Theatre / East West Players |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主たる目的は、アメリカにおける混血人種に関する先行研究を踏まえた上で、20世紀および21世紀のアジア系アメリカ演劇およびアメリカ演劇史全般における「アメラジアン」(アジア人とアメリカ人の混血)の要素を考察し、アジア系、エスニックおよびマイノリティのアメリカ演劇の再定義を行うことである。 2018年度は「アメラジアン」の劇作家とみずからを称するヴェリナ・ハス・ヒューストンの戯曲研究を行い、アメリカ演劇における「混血」の要素の研究において一定の成果を挙げた。2019年度は、ヒューストンがハワイにおけるアメリカ演劇(あるいはアジア系アメリカ演劇)においても活躍の場を広げてきた背景に鑑み、ハワイにおけるアジア系および混血の要素に研究の幅を広げた。2018年度より、英米文化学会の分科会である「アジアパシフィックの劇場文化分科会」にメンバーとして加わり、アメリカ西海岸およびハワイの劇場文化についての研究を進めてきている。特に、1971年の設立以来、ハワイの「ローカル演劇」の上演を積極的に進めてきており、また、ヒューストンを始めとするアメリカ本土で活躍するアジア系アメリカ人劇作家の作品上演を積極的に行っているKumu Kahua Theatreについて、2019年3月に行った現地調査の結果をまとめ、当劇場と劇団の歴史と意義、および本劇団から誕生したEdward Sakamotoの功績について研究発表を行い、この研究成果について共著『回帰するアメリカ文学』(高橋美帆 編、2021年3月発行、大阪教育図書)にまとめた。さらに、2021年7月発行予定の共著『アジア系アメリカ文学の新地平』(山本秀行 他 編)では、演劇、パフォーマンス、詩などの表現メディアと文学のクロスオーヴァーの試みとして,ヴェリナ・ハス・ヒューストンの戯曲にみる多文化多人種の象徴としての「茶」の役割について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度においては、主にハワイのローカル演劇およびアジア系アメリカ演劇の上演を担うKumu Kahua Theatre(以下KKT)について、2019年3月にハワイ大学にて調査を行い、同劇場に関する資料を多く入手し、2020年度はそれらの資料を基に、エドワード・サカモトの戯曲における「ローカル性」及び「混合性」に焦点をあてて研究を行ってきた。さらに、ヴェリナ・ハス・ヒューストンを始めとして、アメリカ全土で活躍することとなるアジア系劇作家を輩出するきっかけとなったEast West Playersのアジア系アメリカ演劇における位置づけにおいても、新たな解釈を試みた。EWPは、女性化されたアジア系男性のステレオタイプを打破しようとする一方、アジア系女性のステレオタイプは反復する傾向にあったからである。そこで,本研究では,全米初のアジア系演劇集団であるEWPの発展と劇場の変遷,アジア系劇作家,俳優の活躍の影にあるジェンダーとステレオタイプの問題に焦点を当てた。この研究成果については、2020年9月に英米文化学会アジアパシフィックの劇場分科会において発表を行った。 さらに、アメラジアンの劇作家が従来の「アジア系」という境界(ボーダー)を「超える」という試みをしている点に着目し、同じく「アジア系」アメリカ演劇のボーダーを超えようと試みる日系アメリカ劇作家チオリ・ミヤガワの戯曲に注目し、能と現代劇の融合を試みた戯曲This Lingering Life (2014)を取り上げ,ミヤガワが現代劇に能の幽玄の要素を取り入れ、亡霊に「追憶」を表現させる意図とその劇的戦略を探った。この研究成果として,2021年3月のアジア系アメリカ文学会(AALA)例会で口頭発表、および同月発行の同学会誌AALA Journal 第26号に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究において、「場所」(ローカリティ)という観点から、ヴェリナ・ハス・ヒューストン、フィリップ・カン・ゴタンダ、ワカコ・ヤマウチのKumu Kahua Theatre (KKT) での戯曲上演とロサンゼルスのEast West Players (EWP) におけるこれらの劇作家の戯曲上演にみられる観客側の受容の違いについて考察を進めてゆきたい。 そのために、アジア系および アメラジアンの劇作家の戯曲が多く上演されるニューヨークやアメリカ西海岸の劇場の調査を行い、アメラジアンの劇作家の戯曲上演における問題点や今後の課題について調査を進め予定であるが、海外出張などが困難な状況であれば、オンラインを活用したインタビューや学会活動などにより調査研究を進めてゆきたい。本研究の成果は、日本アメリカ演劇学会、日本演劇学会、アジア系アメリカ文学会などにおいて研究発表を行い、成果を論文にまとめて各学会誌に投稿する予定である。また、英米文化学会の分科会である「アジアパシフィックの劇場」においては定例会を開催 し(当面はオンラインによる)、2021年度の出版に向けて共同研究を続けてゆく予定である。 さらに、アメリカ演劇における混血研究を進めてゆくことは、長年研究を続けてきたアメリカ演劇の古典であるテネシー・ウィリアムズ、アーサー・ミラー、エドワード・オールビーなどの劇作家の戯曲における移民や人種の問題を再考し、アメリカ演劇史の流れを捉え直すきっかけとなると考えられるが、これらのいわゆる「メインストリーム」のアメリカ劇作家による人種問題の扱いについては、先行研究において十分論じられてきていると思われない点もあるので、マイノリティ演劇からメインストリームの演劇に至る人種問題についても研究を続ける計画である。
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Causes of Carryover |
2020年度は、アメリカ合衆国において、アジア系アメリカ演劇および,ヴェリナ・ハス・ヒューストンをはじめとするアメラジアンの作家の戯曲研究の準備のための調査を行う計画をしていた。また,日系アメリカ人劇作家チオリ・ミヤガワへのインタビューも計画していた。当初はニューヨークのNew York Public Libraryの演劇パフォーミングアーツ図書館分館、およびオフ・ブロードウェイの演劇調査を行う予定であり、出張を2020年夏に予定していた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、その時期における海外出張が困難な状況となり、断念せざる得なかった。また,2020年8月に予定されていた日本アメリカ演劇学会大会,2020年9月に予定されていたアジア系アメリカ文学会(AALA)がそれぞれ延期されたことに伴い,研究成果を発表する場を得ることが困難になった。
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Research Products
(5 results)