2019 Fiscal Year Research-status Report
現代アイルランド人作家が描く移民像の変遷とその社会的背景について
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18K00401
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
河原 真也 西南学院大学, 外国語学部, 教授 (80454924)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アイルランド移民 / アイルランド小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度はアイルランドから北米へ多くの移民を送るきっかけとなったじゃがいも大飢饉、北米のアイルランド系移民の支援によって支えられた20世紀のアイルランド独立運動、独立後の経済的疲弊と米国での入国制限などによって英国への移民を増加させていた時期のアイルランド経済といった、移民と関係するアイルランド史上大きな意味をもつ事象について詳細に検証することで、20世紀のアイルランド人作家が描く移民像とその作品との関係性について糸口を見出すことが主たる作業であった。 特に移民を生み出すに至った歴史的背景を社会、政治、経済という視点を踏まえ、最新のアイルランド史の研究にも目を向けながら再検証したことは、20世紀のアイルランド小説における移民表象を理解するうえで有益であった。例えば、アイルランド系移民の多くが選んだ目的地が米国であったという一般的な認識や、米国に住むアイルランド系移民の多くがカトリック信徒であるため差別されてきたといった言説は、必ずしも事実を反映したものではないことが判明した。すなわち1910年代以降、米国ではなく英国がアイルランド人の主たる移民先となったこと、また米国のアイルランド人の多くがプロテスタントを信仰すると主張していることなどから、現実とは異なったイメージがアイルランド系移民に対して付与されてきたわけである。こういった認識がなぜもたれるに至ったかは、アイルランドの側にも原因があったようで、この点についてはさらなる検証対象となったことも付け加えておく。 こういった移民像を21世紀のアイルランド人がどのように描いているかを考察することが本研究の最終的な目的であるが、当該年度ではColm Toibinだけをまず取り上げ、ステレオタイプと現実とをうまく活用する、アイルランド人作家の革新的な創作意図にも目を向け、次年度以降扱う他のアイルランド小説への発展研究に結びつけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
20世紀後半のアイルランド小説における移民表象についての研究は、当該年度中に2度アイルランドへ渡航できたこともあり、進捗状況が大幅に進展した。アイルランドへの渡航によって、最新の研究動向を探ることができただけではなく、必要としていた歴史的文献の入手も可能となったからである。これによって、次年度に研究対象としていたアイルランド人作家のうち、Colm Toibinについては、対象作品が一つであるとはいえ、研究論文を発表するまでに至った。進捗状況が想定以上であることのもう一つ理由としては、"Irish Newspaper Archive"やNational Library of Irelandにあるデジタル化された歴史的文献へのアクセスが容易になったことに加え、勤務校の図書館が契約するデータベースがこれまで以上に利用しやすくなり、文献入手が容易になると同時に、検索作業が効率化されたことが挙げられよう。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は21世紀のアイルランドで活躍する作家の作品における移民表象について研究を進めていく。具体的には、Colm Toibin, Sebastian Barry, Joseph O'Connor, John Boyneらの4名の作家を対象とするが、すでに前年度にColm Toibinについての検証に取り掛かっているため、1950年代から70年代生まれのアイルランド人作家で、その作品に「移民」を扱ったものを掘り起こし、新たな検証対象として追加する予定である。 さらには、前年度末にアイルランドへの出張を繰り上げ実施したこともあり、そこで得られた情報をもとに「貧しい移民」といったステレオタイプではなく、「多様な移民像」という視点を加えながら、アイルランド小説における移民像の変遷と人々の価値観や社会情勢の変化が連動しているとの仮説を立証したうえで、次年度の総括へとつなげていく。
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Research Products
(1 results)