2021 Fiscal Year Research-status Report
現代アイルランド人作家が描く移民像の変遷とその社会的背景について
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18K00401
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
河原 真也 西南学院大学, 外国語学部, 教授 (80454924)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アイルランド小説 / 大飢饉 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、これまでに検証したアイルランド系移民の諸相と、20世紀前半における移民を生み出すに至った社会背景を踏まえ、前年度と同様、20世紀後半以降のアイルランド小説における移民表象について研究を進めた。特に検証対象としたのはColm Toibinである。Toibinについては、彼の小説作品だけでなく、歴史研究者と共同で出版した「じゃがいも大飢饉」に関する著作にも注目した。言うまでもなく、この大飢饉はアイルランドから多くの移民を生み出すこととなった元凶である。この歴史的大事件が、移民との関連でアイルランドにおいてどのようにとらえられているか目を向けることは、現代のアイルランド人作家の移民観を考察するうえで有益な視座を引き出すこととなった。 また前年度に引き続き、多様な移民像という視点からも考察を深めたが、カトリックとプロテスタントの「宗派対立」という要素をさらに深く掘り下げた点も今年度の成果であろう。カトリックやプロテスタントといった宗派による違いによって、アイルランド系移民の社会的階層が多岐に渡っていたことは昨年度に検証したことであるが、_The Best Catholics in the World_ (2021)という、アイルランド国内において各紙書評で取り上げられた文献は、海外におけるカトリックを信仰するアイルランド系移民の実体を検証する際に新たな情報を提供してくれた。 当該年度の具体的な研究成果としては、歴史的視点から考察を加えた以下のコラムのみとなった。
「1904年のダブリン」、「アイルランド独立までの道のり―土地問題、自治、イースター蜂起」(金井嘉彦・吉川 信・横内一雄【編著】『ジョイスの挑戦―「ユリシーズ」に嵌る方法』、言叢社、2022年、pp. 296-99; pp. 307-10)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
勤務校での学科主任業務が、通常業務に加え、コロナ禍における所属学部の学生支援や推薦入試等においても激増し、夏以降、研究のための時間が全く取れなかったことが主な要因である。またコロナ禍によって海外出張が出来ず、それによってUniversity College Dublinでのデータベースや定期刊行物による検索が不可能となってしまった。さらには現地での専門家からの助言も得られず、アイルランド系移民を扱った20世紀半ば以降の新たな小説についての情報が得られなかったことももう一つの要因として挙げられよう。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで遂行した研究内容の総括として、20世紀のアイルランド小説における、アイルランド人作家が描く移民像の変遷に関係する社会的事象を抽出し、移民表象とそれらの比較を行いながら作家の創作意図を探り、その研究成果を発表することが主な作業となる。すでに2022年6月に所属学会において、歴史的研究に基づく研究発表を行うが、加えて、勤務校の紀要においても21世紀初頭に出版されたアイルランド小説に関する論考を投稿する予定である。 これらの成果を現代の英国、アイルランド両国が抱える問題に当てはめて考察を加えることも本研究のもう一つの課題となろう。北アイルランドにおいて、カトリック系政党の躍進が北アイルランド情勢だけでなく、英国・アイルランド関係にも大きな影響を与え始めている。またアイルランド内戦が勃発した年から百周年にあたる2022年は、アイルランド国内において内戦に関係する様々なイベントが開催されている。可能であれば、 これらのイベントに参加し、「内戦」を描く作家の行為について検証を進め、本研究の発展的課題の糸口としたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、リサーチのためにアイルランドに渡航できず、計上していた海外旅費を消化することが出来なかったため。 本年度もアイルランドへの渡航が実現できるかどうかわからないため、歴史的文献やイギリス・アイルランド史に関するデータベースの所蔵が比較的多い早稲田大学図書館への出張などに、残額を使用する予定である。
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