2019 Fiscal Year Research-status Report
パブリック・インテレクチュアルとしてのエマソン―自然に基づく普遍言語の可能性―
Project/Area Number |
18K00413
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
小田 敦子 三重大学, 教養教育院, 教授 (80194554)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | エマソン / パブリック・インテレクチュアル / 自然 / アメリカ詩 / Self-Culture / Self-Reliance / Self-Help / 敬宇中村正直 |
Outline of Annual Research Achievements |
5月25日に県立広島大学で開催されたホーソーン協会第37全国大会シンポジウム「“Economy, however, is my mottoe”: アンテベラム作家たちの台所事情」で、「エマソン経済圏としてのコンコード」の題で発表した。エマソンの収入源を精査し、幼少時の家庭環境からヤンキー的な経済観念を養い、農本主義と産業資本主義の過渡期に先取的な家庭経営を試み、それが革新的な思想と密接な関係にあることを具体的に示し高評を得た。 ソロー学会の『ヘンリー・ソロー研究論集』第45号に大西直樹氏の新著『エミリ・ディキンスン―アメジストの記憶』の書評を寄稿し、エマソンの自然や詩の観念の観点からのコメントを特徴とした。 9月には共同研究者であるボストン大学Anita Patterson, コルゲート大学Sarah Widerとそれぞれ研究会をもち、エマソンの自然や物質への関心について、これまでの研究成果をいかに微妙に方向転換させることができるかを議論し、来年度の3人のシンポジウムのために可能なテーマを検討した。 10月26日に三重大学で開催された日本英文学会中部支部大会で堀内正規氏、尾崎俊介氏、野田明氏を招聘し、シンポジウム「エマソンの影響―文学から自己啓発本まで―」を行い、「パブリック・インテレクチュアルとしてのエマソン」の題で、エマソンが知名度を上げる過程で、自然への関心を、いかに読者を意識した提示の方法で表現しようとしたか、その変遷を追った。これは大会Proceedingsとしても公開されている。 昨年度から講演などで取り上げてきたエマソンの初期翻訳者中村正直が元々はスマイルズの翻訳者であったことにも絡ませて、19世紀の啓蒙活動におけるエマソンの重要性を「エマソンの ”Self-Reliance”とスマイルズの“Self-Help”」(Philologia 第51号)にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ホーソーン協会のシンポジウムの与えられたテーマである「台所事情」に合わせて、「エマソン経済圏としてのコンコード」というテーマを思いついたが、考えてみると、エコノミーはエマソンの思考に深く根差したものであり、また、彼の革新的な思想、パブリック・インテレクチュアルとなる資質とも関連し、意外にエマソンにぴったりなテーマであることがわかったので。私自身もこれまでの空想家というエマソン像に呪縛されていたのだと気づかされたことは大きな収穫だった。 エマソンとスマイルズの関係も、これまで実証的、本格的に論じられたことのないものだが、スマイルズへのエマソンの影響を明らかにできたこと、それによって、これもその内実が十分に知られていない中村正直のエマソンへの関心についても、有意義な論証ができたので。
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Strategy for Future Research Activity |
「エマソン経済圏としてのコンコード」の発表原稿を、「パブリック・インテレクチュアル」、自然を基盤にした言語との関連でさらに考察したものを論文にまとめるとともに、シンポジウムを基にした論集の準備をする。夏季休暇中にそのために必要な資料収集をハーバード大学図書館、コンコード・パブリック・ライブラリーなどで行う。 エマソンの自然の考え方について、海外共同研究者の2人を招聘し、日本アメリカ文学会関西支部大会7月例会でシンポジウムを行い、他の会員との議論も通じて、研究成果の発表とさらなる課題を考える。コロナ・ウィルスによる出入国制限の状況によっては、延期、または、他の形式での成果発表を考えることになるかもしれない。 エマソンの自然についてのエッセイの翻訳(『自然』「自然の方法」「自然」など)を推敲し、上記共同研究者との研究成果を合わせて、1冊の本にまとめる原稿を整える。書物にして出版する前に、さらに研究成果の発表の機会をもち、他の研究者からの批判を仰ぎ、書物とする価値のあるものに洗練していきたい。
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