2021 Fiscal Year Research-status Report
パブリック・インテレクチュアルとしてのエマソン―自然に基づく普遍言語の可能性―
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18K00413
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
小田 敦子 三重大学, 教養教育院, 教授 (80194554)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エマソン / 自然 / ゲーテ / エラズマス・ダーウィン / 進化論 / ユニテリアニズム / パブリック・インテレクチュアル |
Outline of Annual Research Achievements |
エマソンの自然観の革新性と、それをパブリック・インテレクチュアルとしていかに伝えるかということについて、アメリカ人共同研究者との共同研究成果を学会等のシンポジウムとして発表することはできなかったが、研究の進捗状況の確認と今後の計画のための打ち合わせを8月6日(金)と8月9日(月)にサラ・ワイダー(コルゲート大学)、アニタ・パターソン(ボストン大学)とZoom で各日2時間行った。進化論の扱いを中心に議論をし、あわせて、エマソンはロマン主義と関連づけられながら、ゲーテの影響について、特に、『植物変態論』など進化論に通じる科学論の影響は、アメリカの進化論をめぐる状況もあいまって、あまり研究されていないことから、今年度はその点について研究を進めることにした。その過程で、スウェーデンボルグの影響として一括されているが、エマソンが『自然』を執筆・完成する時期にゲーテだけでなく、チャールズ・ダーウィンの祖父、エラズマス・ダーウィンを評価していることに着目し、『自然』にも進化論的な自然観の影響があることを実証的に精査し、「エマソンのNatureの曖昧性―一元論から進化論へ」というタイトルで、アメリカ文学会関西支部11月例会で口頭発表し、反論も含め活発な質疑応答となった。それを基に、論文にまとめ、三重大学教養教育院紀要に発表した(2022年3月)。 エマソンの自然観を、自然に精神性を認める日本の明治期のエマソン受容者たちはどう考えていたかを調べるために、コロナ感染状況のよいときを見て、国会図書館で資料収集を行い、中村正直、星一、内村鑑三などへの影響について考察を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成果発表の機会を持つことが難しく、他大学図書館の資料も使用が制限されたという面では、順調に進んだとは言えなかったが、ヨーロッパを代表する知識人でありながら忘れられていったエラズマス・ダーウィンの存在を考慮することで、エマソンのエッセイの表現についての疑問も随分解決できそうな見通しがたち、スウェーデンボルグとカーライルの影響のもとで個別に論じられることの少なかった、エラズマスやゲーテの植物学の影響の意味がわかったことは大きな収穫だった。エマソンのロマン主義を、スコットランド啓蒙思想と対立するものではなく、その中から生じた科学的世界観に基づく汎ヨーロッパ的なロマン主義として再考することで、エマソンの自然観をヨーロッパの思想史の中でとらえることができ、同時に、その系統が歴史から消えていった理由などにも注目することになった。その科学思想や生命観とそれを表現するエマソン独自の、イギリス・ロマン派にはない表現とについて、大いに考察を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
エマソンの進化論的な自然観という見方は、アメリカの研究動向では必ずしも歓迎されない要素を含んでいるので、共同研究者たちと議論を重ね、発表の方法を考えていく。実証的な基礎的研究として英語論文にまとめ発表したい。共同研究者たちとのシンポジウムもコロナの感染状況をみながら、対面で或いはZoomで開催する予定である。その成果の中心を、これまでスウェーデンボルグ、カーライルなどの影響として論じられ見過ごされてきた、エラズマスやゲーテとのより直接的な関係として考えることで明らかになるエマソンの自然観におき、エマソンの『自然』理解を促す本としてまとめるために、進化論的な自然観の議論を強化する研究を進め、来年度中には出版したい。
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Causes of Carryover |
アメリカ人共同研究者を日本に招いてシンポジウムを計画していたが、コロナ感染状況の改善を見込めず、実施できなかった。そのため、研究期間を延長し、今年度中に成果発表の機会を持つ予定である。共同研究者2名が来日できない場合は、研究代表者が渡米し、学会発表を行うか、アメリカで他の研究者を招いての拡大研究打合せを行うことで、研究成果の意義を確認する。引き続き、メールでのやり取りを補うためのZoomによる研究打合せも行い、確実に研究を進めていく。
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