2018 Fiscal Year Research-status Report
Genealogy of Two Culture Controversies
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18K00415
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山田 雄三 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (10273715)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 田舎と都会 / 帝国と宗主国 / ルポルタージュ / ドキュメンタリー / 帝国主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
「ふたつの文化」の諸相のうち、その中心となるのは「田舎」と「都会」との分断もしくは交流のあり方である。本年度はこの問題を考察するにあたり、20世紀初頭に注目されはじめたルポルタージュという文学の新しい形式とドキュメンタリーという映像ジャンルに示された試みに着目した。本年度はその点について研究した成果をThe Unreliable Representation of the Subaltern: The Case Study of Tokunaga Sunao’s Reportageという英文の論考と「ルポルタージュの語り手―比較文学的徳永直論」という評論で発表した。概要は以下のとおりである。1930年代にルポルタージュの文体が世界中で注目されはじめたとき、いまだ知られざる労働者階級の日常をルポしようと試みた作家が東西にいる。ジョージ・オーウェル(本名エリック・ブレア、1903-50)と徳永直(1899-1958)である。両者には帝国主義を実地で観察するという共通の経験があった。オーウェルについていえば、彼は1922年から27年にかけて治安警察官としてビルマに生活し、支配者と被支配者双方の眼差しを獲得している。この眼差しの獲得が、彼の描くルポルタージュに決定的な特徴を与えた。他方、徳永は京浜工業地帯や長野の農村でのルポルタージュ執筆で一定の評価を得たあと、意気揚々と満州国に赴き、満州の人びとを報告している。ところが彼にとって、この実地でのルポルタージュの試みは惨憺たる結果に終わる。それは同時に、当時の日本におけるルポルタージュ形式の限界を指し示すことにもなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
田舎と都会の分断および交流のあり方を明らかにするために、20世紀初頭のメディアに注目し、一定の成果は得られた。しかしメディアの発信者は概ね権力を有する「都会」「宗主国」側の観察者であるため、「田舎」「帝国」側からの反応を知ることに限界がある。後者の反応へと調査領域を広げなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
田舎が都会をどのように眺めたのか、帝国=被植民地が宗主国の指導にどのように反応したかを、手記や大手メディアに掲載されなかった文章などを手がかりに調査していきたい。
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Causes of Carryover |
物品購入費に当てた諸費用のうち図書費で、若干の残額が出たため。残額の205円は翌年度分の図書費に補充する予定である。
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