2019 Fiscal Year Research-status Report
Genealogy of Two Culture Controversies
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18K00415
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山田 雄三 大阪大学, 文学研究科, 教授 (10273715)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Alignment / Thatcherism / 一人称複数の語り手 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度のおもな研究実績は学術論文と評論のかたちで発表した。研究論文は英国の学術誌International Journal of Welsh Writing in Englishに掲載されたもので、20世紀後半のウェールズを代表する小説家Alun Richardsによる「二つの文化」を架橋しようとする試みを分析した。Richardsは1980年代に国際交流基金の招きで来日し、日本を取り巻く海の物語を書こうと試み、挫折した。著者はその失敗の原因を、英国のサッチャー主義と日本の経済発展の潮流のなか、Richardsが連帯していた炭鉱コミュニティの崩壊と日本の炭鉱や漁村コミュニティへのアクセスの失敗にみてとる。Richardsの日本での活動を論じた研究は過去に例がなく、これを研究対象としたことは海外でも評価された。 また評論では1930年代のウェールズ小説の語り手の問題を論じた。1920年代、イングランドを中心にモダニズム運動が起こるが、これは語り手の不安定性と語りの不確実性を強く意識したものであった。そのなかから「意識の流れ」の手法およびウルフの『波』に典型的な複数の語り手が作り出されていく。対照的に、ウェールズ にあっては、語り手は共同体から突出することができず、聞き手の存在がアクチュアルに感じられる状況で語るため、一人称複数の語り手の導入といった実験が試みられている。同時期のイングランドを中心とした物語手法とウェールズの手法との相違を明らかにし、1930年代の英国においてイングランドとウェールズ という「二つの文化」が形成されるプロセスを知る手がかりを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的のひとつに、都市の教育と田舎の教育の違いが文学制作にどのように作用したかを解明することがある。イングランドからはD. H. LawrenceとGeorge Orwellを、ウェールズからはGwyn ThomasとAlun Richardsを抽出し、両者の比較をとおして、政治・経済の中枢を担う人材を育成する都市の教育と市民・労働者教育を旨とする田舎の教育の乖離がいつ、どのように始まったのか、七割程度解明できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「文系文化」と「理系文化」の乖離という問題に移っていきたい。高度な職能が求められるようになった19世紀末より文系文化と理系文化の分離が顕著となる。この分離をもたらした要因と、分離がもたらした功罪について追求するつもりである。
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Causes of Carryover |
本年度の支出計画の大部分は英国における調査に当てていた。ところが12月末からのコロナウィルス によるパンデミックの発生により、外国出張が困難になり、出張そのものを取りやめたため残額が生じた。
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