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2021 Fiscal Year Research-status Report

21世紀英語文学におけるポストヒューマニズムの思想史的展開―物質としての生命

Research Project

Project/Area Number 18K00416
Research InstitutionOsaka University

Principal Investigator

渡辺 克昭  大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 教授 (10182908)

Project Period (FY) 2018-04-01 – 2023-03-31
Keywordsポストヒューマン / スティーヴン・ミルハウザー / ドン・デリーロ
Outline of Annual Research Achievements

今年度の研究成果の一端は、論文「錯乱のコズモポリス―『マーティン・ドレスラー』におけるポストヒューマン的身体としての「ホテル」」、『巽孝之先生退職記念論集』(小鳥遊書房、2021年)として出版された。本稿では、スティーヴン・ミルハウザーの『マーティン・ドレスラー』を特徴づけるホテル表象に着目し、主人公の拡張する身体としてのホテルがいかにマニエリスティックな変容を遂げ、内破するに至るか、ドン・デリーロの『コズモポリス』を参照しつつ、ポストヒューマン的身体という観点から、二つの世紀転換期ニューヨークの文脈に位置づけて読み解いた。究極的に主人公は、「グランド・コズモ」を設立するに至るが、ヒューマンとノン・ヒューマンが交錯するその地下世界は、創造と破滅の種子が交差するブラックホールとして機能している。崇高な「コズモポリス」を取り込むことによってポストヒューマン的転回を遂げたマーティンは、世界を手繰り寄せたかに見えながら、その裂け目から転がり落ちるまさにその瞬間に、豊饒なるヒューマンの亡霊と化していくことが明かとなった。
また、日本アメリカ文学会第60回全国大会シンポジウム、「アメリカ作家たちのデモクラシー―危機の時代を超えて」(2021年10月3日、オンライン)では、デリーロの『沈黙』(2020)におけるデジタル・テクノロジーのグローバルなブラックアウトが何を物語っているのか、ポストヒューマン的言説と絡めつつ分析を行った。論文「アメリカン・デモクラシーの逆説とそのゆくえ―Mao IIとThe Silenceにおける自己免疫と来るべき「未来」」、『英米研究』第46号(大阪大学英米学会、2022年)にも、本年度の研究成果は反映されている。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

21 世紀に入り、人新世という文脈において、ポストヒューマニズムという概念も様々な角度から根源的な見直しを迫られてきた。人間の生命が物質によって構築されている以上、人間の能力は無限に拡張できるというトランスヒューマン的思考の枠組みは再考を迫られ、人間中心主義やデカルト的二元論への批判、持続可能な人間と非-人間の連帯や協働の重視へとパラダイム転換が起こった。そのような状況を踏まえ、『マーティン・ドレスラー』論においては、主人公が拡張する身体としてホテルを創造するたびに、生命のあるなしに関わらず、諸々のアクターの錯綜した力学のネットワークが組み直され、彼のミニチュア都市が創造と破滅の種子を交差させるポストヒューマン的トポスとなることが明らかになった。このように、「物質を志向する生命」と「生命を志向する物質」のクロスロードとしてのテクストという視座を構築することにより、日々更新され続ける生命体としてのアクターと、生命なきアクターが協業する異種混淆的なメッシュの動態分析が、今後、本研究の重要な鍵となることが、本年度の研究により明確になった。
全体的な進捗状況としては、本年度もコロナ禍によって若干の停滞は見られたものの、現時点においてほぼ当初の計画通り年次計画を遂行しつつあり、目標は概ね達成されつつある。

Strategy for Future Research Activity

本研究において、ポストヒューマニズムは、自らを構築する物質性により自らを変容させることを宿命づけられた人類のアポリアを浮き彫りにする魅力的な文学的テーマであるとともに、その延長線上にデモクラシーの既成概念そのものにパラダイム転換を迫る様々な契機を孕んでいることが徐々に明らかになってきた。われわれは常に既にポストヒューマンだとすれば、来るべき未来においてデモクラシーはいかなるかたちで命脈を保ちうるのか、研究の新たな地平が開けつつある。
最終年にあたる次年度は、終息の兆しが見えない新型コロナとウクライナ侵攻という、人類に突きつけられた2つの喫緊の課題を踏まえ、存在論的転回、物質論的転回を経たデモクラシーのありようとポストヒューマニズムの関係性も視野に入れ、研究をさらに進めていく予定である。
今後とも進捗状況を的確に把握し、研究が当初計画通りに進まないときの対応としては、分析対象とする作家、メディアをさらに絞り込むなど、計画全体の整合性が損なわれないよう、適宜柔軟に組み替えを行い、研究期間中に一定の成果が得られるよう調整をはかりたい。

Causes of Carryover

コロナ禍により、主として旅費並びに人件費・謝金などの使用が抑制されたため、次年度使用額が生じた。次年度においては、コロナの蔓延状況に鑑み、本研究遂行に必要とされる助成金の執行を、機動的かつバランスよく組み合わせて行う。

  • Research Products

    (3 results)

All 2022 2021

All Journal Article (1 results) Presentation (1 results) Book (1 results)

  • [Journal Article] 「アメリカン・デモクラシーの逆説とそのゆくえ―Mao IIとThe Silenceにおける自己免疫と来るべき「未来」」2022

    • Author(s)
      渡辺克昭
    • Journal Title

      『英米研究』(大阪大学英米学会)

      Volume: 46 Pages: pp. 1-26.

  • [Presentation] 「アメリカン・デモクラシーの逆説とそのゆくえ―Mao IIとThe Silenceにおける自己免疫と来るべき「未来」」2021

    • Author(s)
      渡辺克昭
    • Organizer
      日本アメリカ文学会第60回全国大会シンポジウム
  • [Book] 「錯乱のコズモポリス―『マーティン・ドレスラー』におけるポストヒューマン的身体としての「ホテル」」、『巽孝之先生退職記念論集』(共著)2021

    • Author(s)
      渡辺克昭
    • Total Pages
      545
    • Publisher
      小鳥遊書房
    • ISBN
      978-4-909812-70-4

URL: 

Published: 2022-12-28  

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