2018 Fiscal Year Research-status Report
ジャポニスムとモダニズム―展覧会とエスニック・マイノリティ作家たちの挑戦
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18K00420
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
中地 幸 都留文科大学, 文学部, 教授 (50247087)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジャポニスム / 野口米次郎 / 日本美術 / モダニズム / 展覧会 / 詩 / オリエンタリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、大英帝国博物館の学芸員であった詩人のローレンス・ビニヨンが野口米次郎の日本美術論にどのように影響を与えたかについての調査を中心に研究を進めた。野口の「日本美術」への関心が生まれた最初のきっかけとして、1902年~1903年のロンドン滞在があげられる。ビニヨンはここで大きな役割を果たしたと考えらている。また野口の1913年~1914年の英国講演時にも交流があった。しかし野口は1915年以降に出版する美術論のいずれもビニヨンには捧げていないばかりか1929年のビニヨン来日時に交流があったかどうかも記録が見つからないほどで、彼等の関係の深さには少々疑問が残る。浮世絵論や光琳論については、むしろビニヨン以上にチャールズ・リケッツとシャノンからの影響がありそうである。また野口の美術論には岡倉天心からの影響は顕著である。ただし野口の比較文化的な論にはビニヨンの論調との類似性がある。また詩的な影響も否めない。この調査の過程でビニヨンが交流した日本人美術史研究者や画家、またビニヨンと同時期にイギリスで浮世絵論を著したエドワード・ストレンジ、アメリカのアーネスト・フェノロサ他、アメリカ人日本美術愛好家アーサー・デヴィソン・フィッケなどの文献を調査し、さらに永井荷風など他の日本人文士の文献調査も行った。野口とビニヨンの関係についてはハワイの国際学会で口頭発表を行った。また野口の英詩については『現代詩手帖』の特集号に記事を書き、またアメリカで野口とエズラ・パウンドについて研究をする伯谷嘉信氏の論文の翻訳を行った。国際文学美術館学会でも発表し、海外での東洋美術受容の調査他、日本の仏教美術や琳派、浮世絵、柳宗悦の民藝運動との関連を中心とした調査も国内外で行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査は順調に進んでいるが、19世紀の英国の雑誌や新聞記事の調査には思ったよりも時間がかかっている。またプリミティヴィズム関係の調査は初年度は着手できなかったが、今後はさらにアフリカ美術受容の観点ともあわせながら、文学者による美術論の問題を考えていきたいと思っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後さらに国内および海外の美術館、博物館での調査を進める。国内では、東京都立図書館や国会図書館、大阪府立図書館などで資料を検索しているが、永井荷風や白樺派の文学者など同時代の作家たちへの目配りも今後さらに行っていくつもりである。また野口はタゴールや魯迅などとも交流があったが、インドや中国、東南アジアとの関係や仏教美術の関係も非常に重要であることがわかってきたので、寺院や仏教遺跡での現地調査もさらに進め、野口や岡倉天心がどのように世界の中での日本人を位置づけようとしたのか考えていきたい。トランスナショナルな作家たちの活躍を現代の世界文学理論、グローバル文学理論との対応および多和田葉子のような世界で活躍する現代アジア系作家の視点も視野に入れて分析を行っていきたい。
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Research Products
(6 results)