2019 Fiscal Year Research-status Report
ジャポニスムとモダニズム―展覧会とエスニック・マイノリティ作家たちの挑戦
Project/Area Number |
18K00420
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
中地 幸 都留文科大学, 文学部, 教授 (50247087)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 野口米次郎 / 浮世絵論 / 英語俳句 / ジャポニスム |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究は野口米次郎の浮世絵論に焦点を当てて行った。野口の美術論、とりわけ英語圏の雑誌に発表された美術論は散在しており、また野口は日本語でも様々な雑誌に書いているので、古い雑誌記事の収集はかなり時間がかかった。今回はデータベースを見たり、国内外の図書館に赴いて調査を行ったが、結果、英文記事は14本、日本語記事は11本、英語出版は11冊、日本語出版は12冊が見つかった。インドの神智学協会から出版された本はメルボルンの図書館で見ることができた。おそらくもっと出版物はあると考えられる。また野口の日本語の美術論が英語の美術論とどのように重なり、どのように違うのかについては余り検証されていないが、その点についても詳細に調べた。結論としては、野口は英語でまず書いており、そのあとに日本語で書き直している。部分的な重なりは大きいが、完全な翻訳ではない。調査の過程で、野口と欧米の美術批評家との交流も明らかになった。2018年度には野口と大英帝国博物館の学芸員だったローレンス・ビニョンとの交流を調べたが、今回はサウスケンジントン美術館学芸員のエドワード・ストレンジや画家のチャールズ・リケッツ、アメリカの詩人のアーサー・デイヴィッドソン・フィッケなどとの交流を主に調べ、彼らの著作も調べた。野口の場合、浮世絵や琳派についての随筆は、さらに彼を日本美術を題材とした詩の作成へと導いている。また英語俳句の作成においても美術的な影響が多く見られることがわかった。これは正岡子規の写生論やエズラ・パウンドの短詩と比較しても興味深いと思われる。さらに野口の欧米での芸術家や作家との交流を調査したところ、社会思想家のエドワード・カーペンターとつながりがあることが明らかになった。これは、チャールズ・ストッダードに始まる野口のクイアな人間交流を示すもので、この点は今後調査を進めていきたいと思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プロジェクトの2年目にあたる2019年度は、目的の1)にある、日本美術の海外への紹介および野口のレトリックにおける仏教イメージの活用、また2)野口米次郎などのアジア系作家の英詩とローレンス・ビニョンのアジア美術受容の在り方、などまでを大まかなところで達成した。ただ調査が野口米次郎に限られたので、もう少し幅を広げていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
野口のアジアを経由してのインド旅行は彼のタゴールや魯迅との関係や神智学協会とのつながりを考える上で重要と思われるが、今後野口の著作と東南アジアとの関係などをもう少し調べていきたい。また欧米の日本美術受容とアフリカ・オセアニア・コレクションとの関係がモダニズム文学との交差点では重要になってくるので、今後、アフリカ・オセアニア美術受容の問題にさらに広げて考えていきたい。今年度は現地調査がどこまでできるかわからないので調査には少々遅れが予測されるが、できる限り調査も続けていきたい。日本で収集できる資料をおおいに駆使して、さらにジャポニスムとモダニズムの関係を考えていくつもりである。また広く世界文学との関連も視野に入れていきたいと思う。
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Research Products
(3 results)