2020 Fiscal Year Research-status Report
ジャポニスムとモダニズム―展覧会とエスニック・マイノリティ作家たちの挑戦
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18K00420
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
中地 幸 都留文科大学, 文学部, 教授 (50247087)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジャポニスム / 野口米次郎 / 浮世絵 / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は野口米次郎の英語での日本美術論とりわけ浮世絵論についての論考を都留文科大学の大学院紀要に発表した。また浮世絵を題材としたアメリカ詩を調べ、エイミー・ローウェルやジョン・グールド・フレッチャー、アーサー・フィッケについて調査した。ローウェルのイマジネーションの源となったのは兄パーシヴァル・ローウエルの日本滞在である。またフレッチャーは、シカゴで浮世絵展を見て、その作品について詩をつくった。このシカゴの展覧会については当時の展示目録資料を調べ、浮世絵作品とフレッチャーの詩を詳細に比較してみた。展覧会には建築家のフランク・ロイド・ライトも関わっており、展示の仕方も浮世絵だけを展示するのではなく、各箇所に盆栽などを置いて、独特なモダニスト的な雰囲気のある会場となっていたことも明らかになった。そのせいか、フレッチャーの詩は非常にモダニスト的な詩で、日本人の目から見るとあまり浮世絵的雰囲気を表しているとは思われないが、これこそが欧米の浮世絵受容の好例ともいえる。一方、フィッケは日本に対してロマンチックな憧憬があり、イギリスのロマン派詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの詩のイメージが作品に見られた。これらの詩人たちは、イマジズム運動と関わっており、いかに欧米のモダニズムの詩の生成に日本文化受容が関与しているを確認することができた。浮世絵受容が俳句や短歌の受容と並行しており、フレッチャーのような詩人の中では両者はほぼ同じ概念の芸術としてとらえられていることも重要である。 この調査についてはジャポニスム学会の40周年記念国際フォーラムで発表を行った。今後論文として発表する予定である。2020年度は海外での調査はできなかったが、夏以降国内での調査をいくつかすることができた。その中で秋田蘭画の調査ができたことは日米双方の美術作品受容の問題を考える上で意味があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の大きな目的である20世紀初頭に開催された展覧会とマイノリティ作家たちとの関係についての研究は、野口米次郎が1914年にロンドンで見た展覧会やアート・インスティチュート・オブ・シカゴで1915年に行われたクラレンス・バッキンガムの浮世絵コレクションの展示などと詩人たちとの関係を調べることで、おおむね順調に進んでいる。マイノリティ作家研究の焦点は野口米次郎となっており、当初の計画より狭まっていることは否めないが、研究目的にそって研究は遂行されている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は野口米次郎と中国人文人や中国文学との関連をもっと調べること、またプリミティヴィズム芸術との関係性の中で日本文化受容を見ていくことが必要と思っているが、野口の日本での発信が思った以上にあることがわかってきたので、むしろそちらを先に行いたいと思う。『太陽』などの雑誌に野口が寄せた記事を収集し、分析すると同時に、野口の浮世絵論がどのように形成されていったのかを、もう少し周辺も調査しながら進めていきたい。 また浮世絵受容の問題でいえば、フランス人版画家ポール・ジャックレーと野口米次郎に関係があることがわかった。ジャックレーは1930年代にミクロネシアに旅行して現地の人々を素材とした浮世絵を作成しているが、野口の恋人であったチャールズ・スタダート、その親友のイギリス人作家ロバート・ルイス・スティーブンソンが太平洋の島々への冒険ロマンスに傾倒していたことなどを考えるならば、ジャポニスムと西洋の太平洋へのまなざしがいかに交錯しているかといった問題も今後の課題として見えてきたといえる。
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Research Products
(2 results)