2021 Fiscal Year Research-status Report
ジャポニスムとモダニズム―展覧会とエスニック・マイノリティ作家たちの挑戦
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18K00420
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Research Institution | Tsuru University |
Principal Investigator |
中地 幸 都留文科大学, 文学部, 教授 (50247087)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 野口米次郎 / ジャポニスム / 浮世絵詩 / 浮世絵 / プリミティヴィズム |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、2021年2月にジャポニスム学会の40周年記念フォーラムで発表した論文をもとにしながら、これまでに調査研究した野口米次郎と浮世絵との関係を「ジャポニスムから日本主義へー野口米次郎の浮世絵詩と浮世絵論を中心に」という論文にまとめ、『ジャポニスムを考える―日本文化表象をめぐる他者と自己』(思文閣、2022)に発表した。この論文を書き上げる中で、野口とイマジズム詩人たちとの関係、1912年の日英博覧会における光琳の展示、またそれについての野口の詩とその詩におけるアインシュタイン理論の影響などが見えてきた他、海外の浮世絵ブームと日本の元禄ブームなど、日本文化への関心が、海外と日本においてある意味パラレルに進んでいたことも理解することができた。また野口とアメリカ詩人アーサー・デイヴィソン・フィッケやジョン・グールド・フレッチャーとの関係も読み解くことができた。アメリカの浮世絵詩についてはさらに調査していく課題となる。 また2021年度は小泉八雲にも範囲を広げ、調査を行ったほか、横山大観や藤田嗣治といった画家についての調査も行い、野口との共通項(とりわけ戦争協力)などの考察を行った。野口の仏教や能への強い関心がどのように形成されたのかについても調査を行った。本プロジェクトの第三の目的であるアフリカンアメリカンジャポニスムの研究についても、ネラ・ラーセンとプリミティヴィズムの関係の資料調査を海外研究者の助けを借りながら行った。ラーセンの場合は「混血」というアイデンティティが問題となってくる作家であるが、とりわけ父方のカリブとの関係にラーセンは思い入れがあることがわかり、この点を視野に入れるべきことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍で調査で少々の遅れがあったが、オンラインでの海外資料の収集に努め、現地調査が思うようにできていないために限られた資料での考察になってしまっていることは否めないが、とりあえずはおおむね順調な進展をしている。むしろ当初の計画のほうが漠然としたところがあったため、焦点が絞れてきたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では西洋におけるアジア美術受容という大きな枠口も視野に入れ、欧米における中国美術-とりわけ水墨画受容ーの問題と岡倉天心や野口米次郎の英文美術評論発表の関係などを掘り下げることを考えたが、大枠では曖昧なことになりがちなので、むしろジャポニスムに焦点を絞って研究を進めていきたいと思う。野口の海外への発信の基礎となる仏教や仏教美術と山岳信仰との関連、野口の西行や芭蕉への愛着、および能と浮世絵への視座をさらに調査し、20世紀初頭の海外における版画ブーム(また日本の「新版画」)をさらに探求することにより、ジャポニスム文学における東西交流のありようを考察していきたいと思う。また欧米の日本への視点が、ハワイや南海の島々への視点と交差していることはポール・ジャックレーの浮世絵版画が視覚的に示すところだが、英米の「南洋ロマンス」といったジャンルとジャポニスム小説や日本の海洋文化との関連性も考えていきたい。過去だけでなく現在の状況に立った視点を忘れないためにも、アジア系アメリカ人文学や文化やグラフィック・ノベルといった分野にも目配りしていくつもりである。制限はまだあるだろうが、可能な限り、海外での調査も行えればと思っている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のために海外での現地調査や現地学会参加が不可能であったため。
海外での調査を海外在住の研究者に委託し、謝礼を支払い予定である。また2022年度は国内外での現地調査をさらにすることを予定している、
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