2021 Fiscal Year Research-status Report
初期近代英国史劇の生成と発展-劇団・劇場・俳優のネットワークを中心に
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18K00424
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
真部 多真記 常磐大学, 人間科学部, 准教授 (30364483)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シェイクスピア / ヘンリー八世 / 宗教改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
『ヘンリー八世』(1613)におけるキャサリン妃の表象を「貞淑な妻」の典型であるグリゼルダと比較し考察をした。グリゼルダの物語はボッカチオ、ペトラルカ、チョーサーと語り継がれ、イングランドではチョーサーのグリゼルダ物語がさまざまに形を変えながら文学作品に語り継がれている。興味深いのは、ヘンリー八世とキャサリン妃の関係、とくに、離婚の強要や財産の没収をするヘンリー八世とその仕打ちに耐えるキャサリン妃の関係をワルテルとグリゼルダに重ねて描いている作品があることである。ウイリアム・フォレストの詩The History of Grisild the Second: A Narrative, in Verse, of the Divorce of Queen Katherine of Aragon (1558)がそのひとつである。フォレストはヘンリー八世の理不尽な要求に耐えるキャサリン妃をグリゼルダに例えることで、ヘンリー八世の(ワルテルに類似した)冷血性を強調している。一方、『ヘンリー八世』ではキャサリン妃はグリゼルダのように耐える女性であり、夫の離婚の要求に抗することはできないが、この劇ではキャサリン妃はヘンリーや貴族たちが隠している偽善や野心を暴き、彼らの宗教に対する誠実さ、国家に対する愛国心に疑問を投げかけ続ける。『ヘンリー八世』では、離婚が夫婦双方の宗教問題に発展するが、ヘンリ―が語る離婚の正統性が疑わしい。それに対して、キャサリン妃は宗教に対しても、夫に対してもその誠実さは変わらない。ヘンリーだけでなく貴族や宗教家に対しても常に変わらない、不変のグリゼルダであり続ける。キャサリン妃は離婚は拒絶できず、王妃の立場も失うが、1590年代の歴史劇の王妃たちと比較すると、彼女は男性が描く歴史に疑問をなげかける存在として描かれていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナウイルス対応のため、昨年秋ごろまでは図書館の開館時間や使用機会に制限があったが、その後状況が改善されたため、ほぼ順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
女王一座の歴史劇について考察する。最初の英国史劇と考えらている『ヘンリー五世の有名な勝利』について、シェイクスピアの『ヘンリー五世』1600年Qテクストとの比較を通じて、劇団の変遷と喜劇部分の変更(減少)との関わりを考察する。また、女王一座の地方巡業について調査を続ける。とくに、海軍一座、宮内大臣一座の登場、およびシェイクスピア等大作家の登場後も地方巡業を続けるが、どのような演目を、どのような俳優構成でおこなっていたのか、歴史劇はかかわっていたのか、その後のイングランドの演劇状況にどのような影響を及ぼしたのかなどを考察する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍であったため、文献調査のための旅費および学会参加の旅費の出費が必要なくなったため当該助成金が生じた。今年度は当該助成金を図書購入費および図書館での文献閲覧および調査のための旅費として使用する計画である。
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Research Products
(1 results)