2018 Fiscal Year Research-status Report
イングランド共和制下における王党派詩集と歌集のメランコリックな政治性
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18K00427
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
笹川 渉 青山学院大学, 文学部, 准教授 (10552317)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イギリス詩 / 共和制 / 王党派 / 詩集 / 雑録 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、事前に以下の二つの可能性を証明するために研究計画を立てた。1点目は、1650年代において一見すると政治的な主張をしていない王党派の詩集が、政治的な抵抗手段を担っていた可能性、2点目は、国王不在の中で生産される王党派による詩集や歌集が、王党派のメランコリーの結果として生まれたと考えることのできる可能性である。この仮定に基づき、本年度は、可能性の1点目について資料の収集と読解を行い、その成果を2回の口頭発表中の一部あるいは全てを使い報告した。 資料収集の面では、国内で収集できる一次資料および二次資料として、王党派による詩集とそれに関する研究書に焦点をあてた。また国外では、大英図書館でEgerton MS 2725等多くの手稿を閲覧し、王党派の政治詩と恋愛詩、メランコリーをテーマとした詩、そして歌曲の筆記が繰り返されていることを確認できた。 その成果を研究発表として、研究代表者が所属する学会で報告を行い、特に、共和制下で出版されたWit and Drollery (1656) に注目した。この詩集は、国王不在のもと王党派が国王への忠誠を繰り返す作品が収められていることも重要であるが、内乱期以前に書かれた王党派の作品が、同時代の政治状況への抗議としても読むことができるように構成されている点が最も注目に値する。 以上の文脈に照らせば、詩集に収められた数々の恋愛詩は単なる気晴らしや娯楽という意味を担っていただけではなく、クロムウェル政府のもとで抑圧されていた娯楽を再現し、静かな抵抗を試みていたことの一貫としてとらえることができるだろう。Wit and Drollery の冒頭で描かれるUlyssesの航海が、同じく航海のモチーフを用いたJohn Donneの肉体的な恋愛詩で終わるという枠も工夫の一つとして考えられることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題に関して資料収集とその読解、口頭発表による成果を提示できた点では進展といえるが、年度内に論文としてまとめることができなかった点でやや遅れていると自己評価する。 本研究課題に即した研究資料の収集は、1650年代に出版された王党派の詩集を、研究代表者の所属する機関で閲覧可能なEEBO (Early English Books Online) と、大英図書館での手稿の閲覧を通じて行うことができたため進展させることができた。これらの資料を通じて、娯楽と政治的主張を明らかにした。また、研究計画で提示した、1650年代に出版された王党派の詩集が政治的な主張を繰り返し行っていた点、加えて、内乱期以前に書かれた1650年代と明確な関連のない作品が、スチュアート朝支持のために再利用されているという点を示すことができた。1650年代に出版されたSportive Wit (1656)、Wit and Drollery (1656) やWit Restor’d (1658) を始めとした多くの詩の雑録では、恋愛詩や酒をテーマとした詩が繰り返し掲載され、同時代に弾圧された王党派の娯楽をテクスト上で再現していることが注目される。同時に、これらの作品が不在の国王が復帰することへの願望とともに語られることで、単なる娯楽以上の役割を担っていることを口頭発表で提示することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の2年目となる2019年度は、これまでに収集した資料に新たな一次資料を加えて読解を進め、最低1点の論文を完成させる計画である。この論文では、2018年度に調査を行った1650年代の王党派の詩集についてまとめ、娯楽の背後にある政治性に焦点をあてて論じる予定である。 また、本年度にさらに研究を進める点として、研究計画で挙げた王党派の歌集もまた同じ文脈で考える必要性があることを明らかにしたい。文学史的にいうと、1650年代は共和政府のもと、娯楽がなかった時代と説明されるが、John PlayfordによるThe English Dancing Master (1650)、Musick’s Recreation on the Lyra Viol (1652) など、いまも演奏される楽曲が収録された歌集が出版され、しかも版を重ねている。そこで、1650年代に出版された詩の雑録は歌集と親和性があることに注目し、一見政治的には無縁に見えるこのような歌集が国王を言祝ぐ意図を持っていると仮定し、どのような内容を読み取ることができ、そして可能であればどのような受容のされ方をしていたのかを探りたい。この研究計画を進めるため、図書およびEEBOやデータベースを用いて一次資料と二次資料を入手し、大英図書館、オックスフォード大学ボドリアン図書館、ワシントンのフォルジャー・シェイクスピア・ライブラリー所蔵の王党派による手稿や楽曲の図書を閲覧し、十分な裏付けを行いたい。 さらに、本計画の最終的な目標として掲げている共和制下における王党派のメランコリーの表象も同時に拾い上げながら研究を進める。王党派の詩集と歌集では、王党派によるメランコリーは、権力を失ったことへの嘆きを表現したものであると同時に、その嘆きを治療するための役割をも担っていることが読み取れる可能性を念頭に置きながら文献の読解を進める。
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Causes of Carryover |
旅費として、海外研究機関での資料調査のための渡航を2回計画していたが1回しか実行できなかったため、2019年度以降の旅費および資料収集のための費用として用いる計画である。
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Research Products
(2 results)