2019 Fiscal Year Research-status Report
イングランド共和制下における王党派詩集と歌集のメランコリックな政治性
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18K00427
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
笹川 渉 青山学院大学, 文学部, 准教授 (10552317)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | イギリス詩 / 王党派 / 詩集 / 歌集 / 共和制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題での令和元年度の研究実績は、共和制下に出版、筆記された王党派の詩が政治的に読めることの可能性を探ること、そしてそのような作品にメランコリーの痕跡を求めることの2点である。この点についての研究を遂行するため、研究者の所属機関のデータベース、オックスフォード大学ボドリアン図書館、ロンドンの大英図書館の資料を調査し、印刷された詩集と歌集および手稿にその証拠を求めた。その成果を研究代表者が所属する以下の学会・研究会で発表予定であったが、以下で述べる(1)は台風、(2)は新型コロナウイルスの影響により中止となった。 (1)2019年10月13日(上智大学)日本英文学会関東支部第18回シンポジウム「『妖精の女王』と『失楽園』―叙事詩をどう楽しむか?」(備考URL参照) (2)2019年2月29日オベロン会(国際文化会館)「ChlorisからFloraへー王党派詩人とMiltonによるChlorisの物語の描き方」(備考URL参照) 上記(1)の本研究課題との関連は、特にMiltonの『失楽園』で王党派的な酒宴が批判的に描かれることに注目することで、本研究課題で収集した1650年代の酒を言及した作品との関連を論じるものである。(2)は、17世紀の印刷本と手稿に繰り返し登場するWilliam Strodeの作品を取り上げ、神話の登場人物Chlorisが王権と深く結びつき受容されていた可能性を提示するものである。上記2件を含む本研究課題の内容について、口頭発表および論文として研究実績を提示することはできなかったが、資料収集および研究論文の執筆を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題に関して資料収集を行えた点である程度の進展はできたが、3月に計画したイギリスおよびアメリカへの渡航ができなかったことで資料収集を十分に行えなかったことに加え、上述の理由により口頭発表が2件とも中止になったことから、論文の完成に至らずに遅れていると自己評価する。 収集した研究資料は、昨年度に引き続き、研究代表者の所属機関で閲覧可能なEEBO (Early English Books Online)を通じてAyres and DialoguesやThe Theater of Musicなどの歌集、オックスフォード大学ボドリアン図書館の資料(MS Eng. poet. b. 5、MS. Don. c. 57)、大英図書館の資料(Add MS 30982)等である。これらの資料で描かれるChlorisの扱われ方に注目することで、共和制下に出版された詩集同様に歌集もまた政治的な意味合いを持っていたことを指摘した。このことから、同時期に出版された王党派の詩のアンソロジーに頻繁に収められたStrodeによるChlorisを描いた作品は、政治性とはもともと無縁の叙情詩として考えられるが、次第に王妃の賛美として歌われてきたことの仮説をたてた。このことは、「研究概要の実績」で挙げた(2)として口頭発表予定であったが、2020年度刊行予定の論集に論文として投稿予定である。 本来資料調査として3月にイギリスを訪問する予定であったが、新型コロナウイルスの影響により中止したので、令和2年度中に訪問し令和元年度に実施できなかった資料収集を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の最終年度となる令和2年度は、これまでに収集した資料の読解を進めまとめとなる論文を執筆計画であったが、令和元年度の研究に遅れが生じ、また同年度に予定していた口頭発表が今年度に先送りされたため、研究計画を1年延長する予定である。 そこで令和2年度は以下の4点を遂行する研究計画である。(1)令和元年度に完成させるはずの予定であった論文の投稿(2)令和元年度に口頭発表を行う予定であった内容を基にした論文の投稿(3)研究計画に記載した、Robert BurtonのThe Anatomy of Melancholyが1650年代に刊行されたことの意味とメランコリーの概念を用いての考察(4)令和元年度に実施できなかった海外研究機関での資料収集 (1)については、平成30年度に口頭発表を行った王党派の詩集Sportive Wit、Wit and Drollery、Wit Restor’dに収められた作品の政治的利用のされ方をまとめ、今年度3月刊行予定の論集に投稿予定である。(2)については、昨年度に口頭発表の予定であった内容を3月9日刊行予定の論集に投稿予定である。(3)については、メランコリーについて執筆したRobert Burtonの著作が1650年代にも再版されたことを踏まえ、執筆活動や音楽がメランコリーの治癒のために有効であったことに注目する。さらに、メランコリーの原因が欲望の対象の喪失であることを考慮に入れ、本研究課題の目標である王党派の詩集や歌集に現れる特徴がメランコリックとして分析できることを目標とする。(4)については、新型コロナウイルスの影響次第であるが、渡航が可能であればオックスフォード大学ボドリアン図書館、ロンドンの大英図書館で閲覧することができる手稿をさらに調査し、本研究課題の証拠をより確かなものとして論文発表を行う。
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Causes of Carryover |
旅費として、今年度3月に海外研究機関での資料調査のための渡航を計画していたが新型コロナウイルスの影響に渡航できなかったため、翌年度以降の旅費および資料収集のための費用として用いる計画である。
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Research Products
(3 results)