2021 Fiscal Year Research-status Report
イングランド共和制下における王党派詩集と歌集のメランコリックな政治性
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18K00427
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
笹川 渉 青山学院大学, 文学部, 教授 (10552317)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 王党派詩人 / Richard Lovelace / メランコリー / 詩集 / 歌集 / 初期近代 / イングランド |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度での本研究課題の研究実績は、昨年度に引き続き、イングランド共和制下を中心に出版、筆記された王党派の歌集や詩集に収められた、一見非政治的に思われる恋愛詩が実は政治性を帯びていた可能性を探り、それらの作品には王党派が抱えるメランコリーの痕跡が認められることを考察したことである。特に、国王処刑の年である1649年に出版された、王党派詩人Richard Lovelaceによる Lucasta は、語り手がLucastaへの愛を語る恋愛詩という枠を用いながら、恋人を国王になぞらえている点に大きな特徴があることを考察し、恋愛におけるメランコリーを表現しながら、その基底には国王の不在を嘆いている可能性を検討し読解を進めた。愛のメランコリーを分析するために、国王不在の期間に版を重ねていたRobert Burtonによる愛のメランコリーを論じたThe Anatomy of Melancholyもあわせて考察の対象とした。また、Lovelaceの作品が王党派による歌集であるSelect Ayres and Dialogues (1659)に楽曲として収められているという事実は、国王不在の期間に王党派が作品を通じて国王を表象しながら自らの慰めとしていた可能性がうかがえることを検討した。 あわせて、Lucastaに収められた作品の同時代の受容についての研究を進めるために、大英図書館やオックスフォードのボドリアン図書館所蔵の手稿の調査をおこなうことを計画していたが、新型コロナウイルス感染症の影響により現地調査は断念することとなった。しかし、特例として研究期間の再延長が可能であることの通知を受け、令和4年度に研究内容を公開できるように、本研究を遂行するために必要な手稿の情報を収集し、さらなる研究の準備を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題に関して、これまで2本の口頭発表をおこない、2本の論文を刊行してきたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、当初の計画年度内で最終的なまとめとなる論文を公表できなかったために、遅れていると自己評価する。令和3年度は研究代表者の所属する機関で閲覧可能なEEBO (Early English Books Online)をはじめ、国内で入手できる資料のみで研究を進める計画であったが、その進捗の中で海外研究機関が所蔵する手稿を研究する必要性をあらためて強く感じるに至った。特にRichard Lovelaceの作品が手稿を通じて王党派に受容されていた例を検証するためには、オックスフォードのボドリアン図書館所蔵MS Ashmole 36/37やMS Rawl. D. 1267、MS Rawl. poet. 153、大英図書館所蔵のAdd. MS 27879、Add. MS 47111、Egerton MS 2725等を閲覧し、手稿内での文脈を調べることが必要であると考えるに至った。研究期間を再延長したことにより、状況が許せば、これらの手稿を検証し、王党派の詩人が作品を通じて国王不在によるメランコリーを表現していたことを考察し、論文として刊行する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題のまとめとなる論文を刊行することを目標とする。新型コロナウイルス感染状況による渡航制限が緩和され、国外の研究機関で資料調査ができる可能性と、全くできない可能性の両方を視野に入れ、これまで収集した資料を踏まえながら、王党派の詩集と歌集に見られる国王表象とメランコリーを理論的に分析する。歌集における国王賛美については、令和2年度の研究業績である「牧歌と神話のクローリス ――イングランド内乱期および共和制下の歌集から――」でその一端を論じた。最終年度となる令和4年度は、(1)王党派の詩集にみられる国王賛美と国王不在によるメランコリーがともに描かれる例としてRichard Lovelaceの詩集Lucastaを読解し、(2)歌集に国王不在によるメランコリーが表象される例をLovelaceの曲をつけられた作品を中心に考察する。(1)については、Lucastaの印刷本とともに、手稿で人気を博し流通していた作品群、特に ‘ To Althea, From Prison. Song’ が筆記されていた文脈について、状況が許せば、「現在までの進捗状況」に記載した大英図書館とオックスフォードのボドリアン図書館が所蔵している手稿の調査をおこなうことで、王党派による詩にメランコリーの痕跡があることを追究する。(2)についてはこれまで収集した資料を踏まえ、Lovelaceの作品が王党派による歌集に楽曲として出版されていることを考慮し、一見娯楽に見える歌集が政治性を帯びているだけではなく、国王不在ゆえの王党派のメランコリーの表れとその治療法として機能していたと理解できる可能性を論じられるように研究を進める。さらに、メランコリー理解には、17世紀半ばに版を重ねていたRobert BurtonのThe Anatomy of Melancholyの受容も考慮し、(1)(2)について研究成果の公表を目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大により、海外渡航ができず外国旅費として使用する予定であった経費を使用できなかった。次年度は可能であれば資料調査のための旅費として使用する。また、物品費では研究遂行のための図書資料の購入を予定している。
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