2022 Fiscal Year Research-status Report
イングランド共和制下における王党派詩集と歌集のメランコリックな政治性
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18K00427
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
笹川 渉 青山学院大学, 文学部, 教授 (10552317)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 王党派詩人 / メランコリー / 歌集 / 詩集 / Richard Lovelace / 初期近代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の当該年度の実績は以下の2点である。1点目として、王党派のチャールズ1世への忠誠と、内乱により王権が弱体化したことへの嘆きを、王党派詩人Richard Lovelaceの詩集に見られるメランコリーとして分析する研究をおこなった。Lovelaceの作品はチャールズ1世の宮廷の喪失を作品色濃く表現しており、ジョルジョ・アガンベンの議論を参考にしながら、王党派のメランコリーを体現した詩人であることを彼の恋愛詩を通じて考察し、研究会の口頭発表で報告をおこなった。 2点目は、王政復古後の1670年から80年代にかけて筆記されたとされるオックスフォード大学ボドレアン図書館所蔵の手稿MS Mus. Sch. E. 451の調査をおこなったことである。王党派の作曲家Henry Lawes、William Lawes、Edward Loweらによって作曲された聖書の『詩篇』は、内乱期から共和制下にかけて、A Paraphrase upon the Divine Poems (1638) やChoice Psalmes Put into Musick for Three Voices (1648) 等を通じて出版され、1670年代まで版を重ねていた。本手稿を見ると、『詩篇』の順番とも印刷本とも異なる配列になっていることがわかり、執筆者が意図的に配列を変えていたことが窺える。例えば冒頭では神に悲しみを語る内容が筆記されているが、後半では神への賛美になるといった変化が見られる。また、王党派的快楽を示す詩の曲を筆記する詩篇の間に入れるなどをおこなっており、筆記者は『詩篇』を通じて国王を賛美する目的があった可能性を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究課題に関して、当該年度は1回の口頭発表と、収集した資料を用いた1本の論文を公表することができた。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、海外の研究機関での資料調査を計画していた時期におこなうことができなかったため、進捗状況は遅れている。 令和4年度は研究代表者の所属する機関で閲覧可能なEEBO (Early English Books Online)で文献調査をおこなうとともに、Richard Lovelaceの作品が手稿を通じて王党派に受容されていた例を調査するために、オックスフォード大学ボドリアン図書館所蔵MS Rawl. D. 1267とMS Ashmole 36/37、大英図書館所蔵Egerton MS 2725等の手稿を通じてLovelaceの作品が受容された例を閲覧した。 当該年度におこなった研究の一端を口頭発表として提示することはできたが、本研究のまとめである論文として刊行するには至らなかったため、重ねて研究期間を延長した令和5年度は、令和4年度以前の研究成果も踏まえ、論文として成果を公表することを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題のまとめとなる論文を公表することを目指す。当該年度の3月に資料調査のために海外の研究機関を訪問し、資料の分析を進めることができた。過去に収集できた資料を用いて、王党派の詩集と歌集に見られる国王表象と国王不在を嘆くメランコリーを分析した論文を発表する。 歌集における国王賛美については、令和2年度の研究実績である「牧歌と神話のクローリス ―イングランド内乱期および共和制下の歌集から―」で、王党派のメランコリー的特徴はRichard Lovelaceの詩集について口頭発表として論じた「LovelaceのLucasta (1649) について―獄中の恋愛詩」で考察をおこなった。上記の研究成果と調査した手稿を手がかりに、令和5年度はLovelaceを中心として、王党派の作品がメランコリー的な特徴を持って受容された例を論じる。例えばLucastaあるいはAltheaなどの特定の名前をあげた恋人に愛を歌いながらも、恋人を国王として読み替えることができる恋愛詩に見られることはメランコリーとして考察できる例となる。さらにこのような作品の受容には、内乱期から共和制下の元で出版された歌集の影響が強く出ていることを考察し、王党派の政治的権力が失われていた時期に歌集の持つ政治的意味を分析する。 Lovelaceの作品もまた歌として流布していた事実から、Lovelace個人の声だけではなく王党派全体のそれを表したものとして理解することができるだろう。非政治的な内容を歌った歌集は政治性を持っているだけではなく、国王不在が生んだ王党派の喪失感を表現したものとして理解することができる。そして王党派の歌集が、メランコリー治療として機能していたことをRobert BurtonのThe Anatomy of Melancholyを参考にして論じる計画である。
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Causes of Carryover |
令和4年度に旅費として使用する予定であったが、円安を見込み現地での支出を抑えたために次年度使用額が生じた。同次年度使用分は、研究遂行のための図書購入費、論文執筆で使用する消耗品のために使用する。
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Research Products
(2 results)