2018 Fiscal Year Research-status Report
Narratives of Scotland in printed and pre-print English Chronicles
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18K00428
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
高木 眞佐子 杏林大学, 外国語学部, 教授 (60348620)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張替 涼子 東京理科大学, 理学部第一部教養学科, 講師 (70778175)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | John Hardyng / イングランド年代記 / ハーディングの年代記 |
Outline of Annual Research Achievements |
John Hardyngの伝記研究を,ほぼ完了することができた。特に,イングランド王,ヘンリー5世の命を受けて,スコットランドでHardyngがスパイ活動をしていた状況について,現在までの研究動向が明らかになった。Hardyngの年代記の序論には自身のスパイ活動について言及があり,工作活動に関連していそうな記述はそれ以外の箇所にも散発的に確認できる。上述の研究内容については当該年度の日本英文学会全国大会にて,研究代表者がシンポジウム発表を行った。さらに発表趣旨を研究成果として雑誌に出版することもできた。 Hardyngに関連する40あまりの写本資料の中では,英国の図書館にて20点ほどの文書を閲覧し,必要なデジタルデータを取得した。また、Hardyngがスコットランド関連で作成した資料を転写した文書がオックスフォードの図書館に保存されており,こちらも閲覧することができた。その結果、研究代表者は、The National Archiveに保存してあるHardyng関連の資料で,現在は判読できなくなっている部分の記述をオックスフォードの資料上で確認することができた。(ただしこの点については既に刊行された研究がある。本研究においても重要な再確認が完了したという意味に過ぎない。) Hardyngの年代記と,キャクストンによる英国の年代記Chronicles of Englandの比較研究も進めることができた。多くのページを照応できた。これまでのところ、ほぼ共通点がないほど異なっている箇所も多いことが判明した。これについては【現在までの進捗状況】において詳述する。 一方でThe Scotorum Historiaの記述と、上述の二者とは平成30年度には比較研究ができなかった。ゆえにスコットランド年代記との照応は次年度以降に課題を持ち越すこととなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年代記の研究において,イングランド側の2種類の資料の比較は順調に進んでいる。Sarah Peverleyによる博士論文を底本としつつ,Hardyngの年代記の主な二版を参照し,特に1406年から1437年までの記述の照応を,キャクストン版Chronicles of England(1480)に対して行うことができた。その結果、Hardyngの年代記は、キャクストン版から著しく逸脱しており、両テクストの強調点はまったく異なっていることが明らかになった。双方の記述にイデオロギーとしての開きがあるというよりは、Hardyngによる記述は、興味のない部分については大ざっぱに済ませる一方で、ごく一部を異様に拡大したり強調するところが目立つのである。つまりHardyngを「年代史家」というカテゴリーにひとくくりにするのは適切でない可能性が高い。彼の個人的な理解に基づいた主観的な取捨選択が極めて目立つからである。 さらに、Hardyngがイングランド-スコットランド関係の調停役だったことを自身の年代記に充分すぎるほど反映していること,地政学的な状況や地図作成は自分の体験を盛り込んでいたことも複数の資料から明らかになった。それらの事実もまた,彼が作成した年代記の特異性をよく物語っている。 研究分担者はHector Boeceの年代記の記述についての研究を独自に進めている。しかし入力作業が予定していた通りに進まず,研究代表者との共通フォルダの設置にまで至ることができなかった。 しかし,当初の研究計画の次年度分(平成31年度または令和1年度分)を大幅に進行させることが可能になったため,全体の進行に支障を来す結果には今のところなっていない。本研究は概況とすれば今のところ,平成30年度と平成31年度(令和1年度)の内容を逆転させたものに近い進捗状況となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後,本研究には,当初の研究計画になかった概念的なポイントを補強材料として盛り込みたいと考えている。研究代表者が,オックスフォードの歴史学のセミナーで有益な知見を得たからである。現在,ヨーロッパ中世研究において,creolizationという(かつてフランスで20世紀に植民地生まれの子どもをcreoleと呼んでいたことに由来する)概念を応用する動きが進んでいると,Bernard Gowersが最新研究の中で述べたことに着想を得ている。中世後期のイングランドとスコットランドでは,人種的文化的混交が極めて複雑であったため,そのままこのコンセプトを本年代記研究に応用するのは難しい。しかし,15世紀はイングランドの領土拡張主義が優勢だったから,イングランドの年代記にはnarrative of invaders,一方でスコットランドにはnarrative of being invadedという視点の対比が生まれることは予想できる。一例として,Hardyngがスコットランドに傀儡政権を樹立したエドワード3世を礼賛するのは,イングランドの領土拡張主義のイデオロギーを肯定する好例である。本研究が単なる文章の比較で終わるのではなく,国家の歴史観を語る年代記を本質的に説明できるよう、3つの年代記の分析研究を推進していきたい。 そのためにも,文章の比較から見えてくる記述分析をいっそう大切に進めて参りたい。前年度からの課題である,研究代表者と分担者が共通に使える共用フォルダの設置を実現し,具体的な文書の比較から上記のコンセプチュアルな検討を説得力のあるものとしたい。 なお、本年度中には、高宮利行教授、Chronicleの専門家であるJohn Thompson教授、政治力学と中世後期文学の関連を研究しているCarole Mealeと情報交換をし、必要に応じて知見を仰ぐ予定である。
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Causes of Carryover |
共用フォルダの設置見通しが立たないため、コンピュータ1台の購入を見送った。そして旅費の請求をしなかったことによっても次年度使用額が生じた。共用フォルダの設置は翌年度の課題であることから,コンピュータの購入費用の発生が見込まれる。また旅費も今後2年の間に追加の支出が見込まれる。
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Research Products
(7 results)