2019 Fiscal Year Research-status Report
Narratives of Scotland in printed and pre-print English Chronicles
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18K00428
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
高木 眞佐子 杏林大学, 外国語学部, 教授 (60348620)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張替 涼子 東京理科大学, 理学部第一部教養学科, 講師 (70778175)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ジョン・ハーディング / スコットランド / 年代記 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度はジョン・ハーディングの偽造文書がその年代記作成と深く関わっていること、また偽造ではない文書が2点ある可能性があることを明らかにした。これらの文書には、歴代のスコットランド王が自国が英国に従属していることを認めてきたと書かれており、ハーディングがイングランドによるスコットランド支配を熱望していたことを示している。 本研究の当初の研究計画では、2019年度には様々な年代記の1460年代に近い記述のごく一部を、数点を選んで本文比較することを企図していた。しかし研究を進める間に、分化する英国初期刊本の年代記の記述研究の前に、ハーディングの年代記の基礎研究を進めることのオリジナリティが極めて高いと判明した。 そのため、歴史的な歪曲が鮮明なハーディングの記述箇所を、より広い時代から探り当てるという方針に切り替え、歴史的な記述の変化という本研究のテーマをハーディングに絞って示しても研究の当初の目的は充分果たせると判断し、フォーダンのジョンによるスコットランドの歴史書との比較において、ハーディングによるスコットランド王家の記述の洗い出しを研究代表者・分担者が共同で進めることにした。(ハーディングには第一版と第二版が存在するため、両方のテクストの矛盾もリサーチ対象に含んでいる。) スコットランドの史実を同様に歪曲した例は、ハーディングの『年代記』に複数あると考えられる。今後の研究ではそれらを特定し、ハーディングの典拠としたソースとその歪曲を具体的に指摘し、彼のスコットランドに関する知識が年代記執筆の過程でどのように歪曲されたかを明らかにすることを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究で使用を企図していたJames SimpsonとSarah Peverley編集によるHardyng’s Chronicle: Edited from British Library MS Lansdowne 204 (Kalamazoo: Medieval Institute Publications)の第2巻発行が遅れている(2020年6月現在)。また、ハーディングの基礎的な伝記研究にはおよそ100年前から変化/進歩がなく、E.D. Kennedyによる断片的な研究を除けば20世紀または21世紀のハーディング像には新たな知見が見いだせていないことがこれまでに判明した。これらの2点を踏まえると、当初、本研究が目指した年代記の改編の系譜のテーマを散文の『年代記』一般に押し広げて本文研究するには、材料がまだ不十分であると結論せざるをえない。翻ってハーディングの年代記について、より基礎的な研究を充実させることのほうが、むしろ年代記研究に役立つと判断した所以である。 こうした大幅な方針転換が必要になったことと、ハーディングの年代記をより全体的に把握する必要が生じたために、進捗状況としては「遅れている」と記したが、実際にはハーディングの伝記研究に新たな角度から知見を加える作業に差し掛かっており、必ずしもハーディング研究そのものが遅延している状況にはない。ただ、テクスト本文はまだ端緒についたばかりといった表現が適切で、読破すべきページ数はまだ全体の7割程度と多い。 ちなみに判明している改変は以下:ハーディングはスコットランドの起源神話に登場するエジプトの王女スコタを「庶子」と表現して貶めた。また、マクベス王とダンカン王の記述を意図的に抹消した。さらに、マルコム3世が、イングランドのシワード伯爵によって戦場で戴冠させられイングランドへの忠誠を誓う、という場面をわざわざ描き込んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
既に始めている、スコットランド王権に関するハーディングの記述の、具体的な改変箇所を年代記全体にわたり網羅する。(第一版と第二版の違いまで含めることができればなお望ましい。)まず1812年のEllis版を底本とし、1543年のGrafton版を適宜参照、第二版についてはBodleian Library, Arch. Selden B. 10.、第一版についてはBritish Library MS Lansdowne 204 のデジタル資料を参照し、Ellis版との差異があれば記述する。 ハーディングの年代史家としての死後の名声と使用のされ方とは裏腹に、貧窮を押して偽造文書までオーダーメードをして書き進めた年代記は、生きていた当時の彼の不遇さと名誉欲を示している。こうした大枠に上記のハーディングによる改ざん箇所を当てはめることにより、ハーディングがスコットランドについてどのような情報をどんな方法でイングランドに定着させようとしたのかを明らかにする。 必要な基礎資料Henry Ellisによる1812年の資料の他、Richar Graftonによる2つの校訂版は研究代表者の手元にある。また、スコットランドの年代記は、バーミンガム大学のサイトで公開されているDana F. Sutton編集の1575年の版がオンラインで閲覧できる< http://www.philological.bham.ac.uk/boece/>(2010年2月26日更新)。
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Causes of Carryover |
2019年度の後半には予定していた渡英をキャンセルすることとなった。研究に必要な基礎的な資料は手元にあるが、最終的なまとめとして意図していたシンポジウムの企画に招聘しようと考えていた、海外の研究者の予定が立たなくなった。研究代表者と研究分担者が一堂に会して発表をするという設定そのものも計画が難しい。そのため、学会発表の計画が2020年度は白紙である。国内の研究発表会において、個別に中間報告をするのが現在のところ最善であろうと判断しているが、本来成果報告として企図していた性格のものではない。 ゆえに来年度学会報告の計画を改めて立てる必要が生じている。そのために生じる旅費、招聘するゲストスピーカーへの謝礼を含めた金額を計上させていただきたい。
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Research Products
(3 results)