2020 Fiscal Year Research-status Report
Narratives of Scotland in printed and pre-print English Chronicles
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18K00428
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
高木 眞佐子 杏林大学, 外国語学部, 教授 (60348620)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
張替 涼子 東京理科大学, 理学部第一部教養学科, 講師 (70778175)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ジョン・ハーディング / 年代記 / スコットランド |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の「研究実施計画」では、1400年以降のハーディングの年代記の記述を英国及びスコットランドの主な年代記と比較対照することが主眼となっていたが、調査の結果『イングランド年代記』とハーディングの年代記における記述内容は大きく異なっており、ハーディングが当該箇所の執筆当時に『イングランド年代記』の系譜の資料を参照したことは考えにくいという最終結論が出た。ランカスター朝成立以後の年代記には党派的色彩の強いものが激増していたため、ハーディングが他にどういう情報を入手できたのかは引き続き調査が必要だが、自身が経験した1400年以降の記述については自分なりに書き下ろしたという可能性が強まったと、現時点では判断される。一方、スコットランドの年代記との関連では重要な二つの歴史書Gesta Annaliaとジョン・フォードンによるChronica Gentis Scotorum両方を、ハーディングが読んでいた可能性が指摘されたことが、2020年度の成果として重要である。 特にスコットランドの歴史で強調される王位継承権における「母系」の強調が、ハーディングが強調する「男系」の継承権の重要性につながったという見方は極めて興味深い。スコットランドと張り合うイングランドの王位継承権の正統性とはハーディングが年代記全体を通じて強調しているテーマであった。プランタジネット朝の始祖とされたエドワード懺悔王の伝説や、聖杯伝説の記述なども、継承したのが「母系」か「男系」かという視点から、スコットランドの歴史認識へのアンチテーゼとして読み解くことができる可能性が出てきた。 王位継承権の正統性とは、同時代のランカスター朝成立、そして薔薇戦争勃発とも当然密接な関係にある。1400年以降の記述でも「母系」と「男系」の議論があることから、ハーディングの追求したテーマには一貫性があったことが明らかになろうとしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の中心はテクストの照合及び史実の洗い出しとその扱いの分析の繰り返しで、ほぼ順調に進んでいる。ただし、一部テクストの解釈等を巡る先行研究で未解決の諸問題ーー例えば第一版とされるBL Lansdowne写本と第二版とされるそれ以外の諸写本との関連ーーについては特に新しい知見は得られていない状態にある。 また、当初の「研究実施計画」で想定していたよりも前の時代についての研究の重要性が高まったために、新たなテクストの照合及び史実・神話の洗い出しとその扱いの分析が必要となってきている。こちらの部分の研究の進み具体そのものは極めて順調であり、特段の問題はない。ただし、後半部で使用した校訂版がHenry Ellisによる19世紀のもののみだった一方、前半部の研究に使用できる校訂版にはこれに加えて(ハーディングの第一版に基づく)最近のSimpson & Peverley版がある。しかもこの最新の校訂版は未完であるため、既に研究している後半と研究材料を揃えることができないジレンマに陥る。 打開策としては、Simpson & Peverley版とEllis版の違いを踏まえた上で、ハーディングの記述の前半部分を論じるしかない。そしてそれは必然的に、ハーディングが第一版から削除した言説は何だったかという、ハーディングの第一版と第二版の関係についての研究と結びつくことが予想される。 このように本研究は、ハーディングの党派的な言辞を中心とする研究でありながら、文献学的な分類や分析も必要となる新たな段階に入ってきている。最終的なまとめである本年度は、上記全ての要素を全て扱うこととなる予定だ。いずれのテーマも、これまで一元的な視野から扱われたことはほとんどなく、オリジナリティの高い研究だと控えめに言ってもいえるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究の最終年度に当たるため、研究発表と研究報告としての論文のまとめを予定している。研究発表は国内のスコットランド関連の学会にて、論文のまとめは査読付きの雑誌への応募を検討している。共著で出すことが理想ではあるものの、研究者同士の予定を合わせることが困難な実情であるため、単著が別々に連関のある形で出版される運びになると予想している。 また、国内のハーディング研究の第一人者である髙宮利行慶應義塾大学名誉教授の知見を仰ぎ、研究成果の発信に有益なアドバイスをいただくことを検討している。 一方で、コロナ禍で参加予定だったイタリアでの国際アーサー王学会が二度の延長の末中止に追い込まれてしまった。また多くの国際学会でZoom形式が採用されはじめているが、大会情報の変更や参加可能な日程時間調整などが予想以上に難航し、本研究における国際的な知見を得るための手段は、徐々に狭まりつつある。日本に招聘予定にしていたスコットランドの研究者も、来日の予定が付かないままである。こうした現状を打開すべく、研究成果の発信をするための手段として、これまで視野に入れていなかったインターネット経由での発信やAcademia.edu等、新たなプラットフォームの活用も考えていく必要が生じている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、予定していたイタリア・シチリア島での学会が中止となり、交通費・宿泊費が大幅に未使用となった。従って、この分を他の用途、書籍購入、コンピュータの購入等に消費したいと考えている。
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Research Products
(3 results)