2018 Fiscal Year Research-status Report
18世紀イギリス公共圏におけるトラヴェルライティングと感受性に関する歴史的研究
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18K00432
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
吉田 直希 成城大学, 文芸学部, 教授 (90261396)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | トラヴェルライティング / アダプテーション / 公共圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年のトラヴェルライティング研究の分野では、【1】分析の対象に散文による旅行記のみならず、個人の旅程表や各種地図、旅をテーマに作られた絵画や映画、ドキュメンタリー等を含める傾向にある。これは様々なテクスト間、メディア間のアダプテーションを考察することを意味している。ここでのアダプテーションはいわゆる「翻案」とは異なり、オリジナル/コピーといった二項対立を想定しない。したがって、トラヴェルライティングが描き出す「主体」と「他者」はつねに入れ替わる可能性を有しており、「異質な世界」は「日常世界」へと変化しつつ、その逆転もまたあり得る。本年度研究では、小説作品を主たる研究対象とするが、「アダプテーション」=「テクストを横断して形式の変化をもたらすもの」という定義にしたがい、個々のトラヴェルライティングが「共感」を軸に先行テクストを書き換えているという前提に立って、公共圏で無限に断片化し、商品化されるトラヴェルライティングがいかに消費されてきたのかを様々な作品読解を通して検討した。【2】文学における感受性研究の分野では、例えばセジウィックの研究を基礎に、「感情に触れる身体」といった新たな批評の様式が注目されている。そこで、抑圧/解放、自然/文化、現存/不在という二項対立の再活性化にどう立ち向かうかといった21世紀的問題について海外の研究者とディスカッションを重ねてきた。これらの作業を通して、先にみたアダプテーション理論がつねにオリジナルへの忠実性を前景化してしまう理由を検証し、理論の再構築をはかる必要性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定していた研究会を十分に活用することができなかったが、学会発表、論文発表によりおおむね初年度の計画(基礎的文献の整理と考察に関する部分)を達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
長い18世紀の転換点に位置する『センチメンタル・ジャーニー』を対象とし、この作品を感情の転回という視点から分析しつつ、スターンが世紀前半のテクスト群をいかに〈アダプト〉しているか次の3点に絞ってさらに検証する。 A 旅行者の身体/精神の相互関係を文学史に沿って明らかにするため、心身の変調に対する医学言説、生死をめぐる感覚論を精査する。道徳哲学では、「良心」をめぐる議論を取り上げ、共感に関する論考(ヒューム、スミス)と唯物論的機械論(ラ・メトリ)を検討し、世紀後半において、感受性の身体的重要性が高まっていく理由を明らかにする。 B 聖職者スターンの『説教集』を参照しつつ、旅行者の分類(外交官、商人、観光客等)の政治的意味を明らかにする。また、感受性文学研究には不可欠な熱狂の議論をメソディズムの流行と批判を軸に考察する。さらに、説教、パンフレット、書簡で用いられる語りのレトリックを分析し、スターンが提示する「事実」の虚構性を明らかにする。 C国内外における旅行者の移動がもたらす経済的諸問題を整理する。旅行者の分類は、貿易、戦争、階級と密接に関係するが、さらには人種、国籍、都会/田舎、ジェンダー、セクシュアリティの問題へと広がっていく。こうした多様な問題意識を背景として抱える旅行者の感受性が「書く」ことによっていかに変容するのか、そして旅先で出会う異質な他者の感受性がいかにして共感されるのかを明らかにする。 上記3点を軸に研究の方法論を早い段階で確立し、9月に渡米し、スタンフォード大学で共同研究会を開催する。そのための事前打ち合わせを現在、ジョン・ベンダー教授と行っている。その成果は、学術論文として発表し、併せて国内でのシンポジウムを企画する。
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Causes of Carryover |
海外での研究者との打ち合わせが双方の都合により延期されたため。次年度は実現の可能性が大きい。
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Research Products
(2 results)