2020 Fiscal Year Research-status Report
ミンストレルショーと初期ミュージカルの研究:舞台芸能交流の観点から
Project/Area Number |
18K00438
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
ウェルズ 恵子 立命館大学, 文学部, 教授 (30206627)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 歌詞 / 作詞家 / 文化接触 / 文化交流 / ミンストレルショー / ブロードウェイ・ミュージカル / アメリカン・ポピュラーソング / 音楽文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アメリカの大衆娯楽文化のうち特にその発展において重要な役割を果たしたミンストレルショーと初期のミュージカルショーの文化・文学を、19世紀から20世紀前半の文化交流史的文脈において追求する。2020年度までに明らかにできたことは、ミンストレルショーが都市部の下級労働者をオーディエンスとする芸能に留まるものではなかったということである。都市郊外や農村部の中間層コミュニティで住民が演じる劇場でも愛好され、広範囲にわたる大衆文化の流通に大きな影響力を持っていた。また下層から中間層にわたる大きな影響力ゆえに、ミンストレルショーの娯楽的な枠組みは1920年代以降のラジオ番組に接続するという点も明らかになった。この研究結果については、ミンストレルショーと関連文化の資料集及び解説文を編纂、執筆することで成果発表している。
2020年度は19年度までの研究成果を踏まえつつ、時代の影響を受けて「人々とともに移動して熟成した芸能の伝統」という視点を研究に加え、芸能の中の言葉の部分を「音声と身体で表現される文学」として捉えて研究を続けた。その後研究内容をアメリカの初期ポピュラーソングの歌詞と作詞家を主要な研究対象に絞り込んだ。明らかになった事は「進捗状況」に記載する。概要は次のようなものである。19世紀から20世紀前半は、国力向上とともにアメリカの大衆娯楽文化が強い影響力を培い、世界をリードするようになる基礎ができた時期であった。本研究ではこの点を枠組みとして据え、ミンストレルショーと初期のミュージカルショーがアメリカのポピュラーソングの母胎として発展していく様子を、人の移動や文化接触に気を配りながら、歌詞の変化に指摘する。最終的には、アメリカのポピュラーソング歌詞史が示す意味を解析したい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度に明らかになったことは、以下である。 (1)1840~1870年代《風刺の時代:Irishの伝統のもとに》Minstrel Showsを通して伝承歌謡ではないアメリカ生まれのポピュラーソングが流通する。代表的な作詞家はStephen Fosterである。Fosterの歌詞が、戯画的なものからロマンチックで叙情的な歌詞に変わっていったことが次の時代を予兆する。作詞家や作曲家の著作権が認められていなかった時代でもある。 (2) 1880~1910年代《文化融合の時代:Jewish の伝統を秘めながら》Tin Pan Alleyの音楽出版ブームに乗って、ポピュラーソングが広まった。ミンストレルショーやボードビルの音楽、ユダヤ人系音楽、黒人系音楽などとクラシック音楽の要素が混じり合いながら、精力的に新しい時代の音楽が作られていった。歌詞は英語も内容もわかりやすく比較的単純で、多文化適応的なものが多い。代表的な作詞者はIrving Berlinである。作詞家や作曲家の著作権が意識されるようになっていった。 (3) 1920~1930年代《ロマンスの時代:ミリタリズムのカウンターパートとして》Broadway Musicalsのヒット曲を中心に、現在にも残るアメリカン・ポピュラーソングのスタンダードナンバーが多く産出された時代である。 設定や登場人物をアメリカ西部や黒人たちなど、オーディエンスにとっての周縁部から取り入れることで、 現実感のあるファンタジー世界を作り上げている。これと呼応して、名曲の多くはロマンスをテーマにしている。この時代が最も多くの優れた作詞家を生んだ。代表的な作詞家には、Dorothy Fields, Ira Gershwin, Lorenz Hart, Cole Porter, Oscar Hammerstein IIなどがいる。ポピュラーソングであっても、作詞家と作曲家の認知度が高まった時代である。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年度に明らかになってたアメリカンポピュラー音楽の流れについて、資料の裏付けをとり論文にまとめる。COVID-19の流行に伴う渡航制限によって、アメリカ国内の資料調査が進んでいない。 購入できる図書資料とデータベースを利用して、できるところまで裏付けを進めていきたい。具体的には、3方向から進めてそれらを上記で区分した時代ごとに総合していく。3方向とは、(1)〈時代・社会枠〉経済、人流、政治状況等の把握、(2)〈業界外枠〉舞台や演芸場の設置や音楽出版流通の把握と、〈業界内枠〉芸能者・創作者らの移動や交流、接触状況の把握、(3)〈個別枠〉 作詞家たちの文化的背景と、作品内容の精査 及び分析。この3つのうち、(3)の作品分析を最終的に本研究の中心とする。
|
Causes of Carryover |
COVID-19の 流行により渡航制限があり、海外の資料調査ができなかった。海外旅費として予定していた金額がそのまま持ち越されてしまった。2021年度に海外渡航ができるようになれば出張費として使用したい。できない場合は購入可能な資料を調査して手配したい。
|