2019 Fiscal Year Research-status Report
Changes in the Literary Market and the Formation of Narrative in Early-Modernist Novels
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18K00440
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
伊藤 正範 関西学院大学, 商学部, 教授 (10322976)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 英米文学 / イギリス小説 / 群衆 / リテラリー・マーケット / 商業 / 市場 / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究事業2年目である本年度は、Charles DickensのOliver Twist(1839)を主な研究対象とし、ヴィクトリア朝初期の群衆表象と小説の出版形態の変遷との関連を探った。具体的には、テクスト内に度々登場する群衆の背後に、大衆文化やジャーナリズムの隆盛に伴って形成されつつある新しい大衆の姿を見出した上、そうした大衆が小説の語りにおいてどのように内部化されているかを検証した。それらの大衆は、一方向的な関心に突き動かされた存在であるという点において、同時代の街頭でしばしば通行人を集わせていた大衆人形劇「パンチ&ジュディ」の観客や、犯罪記事を「消費」する新聞読者と重なり合う。だが、小説が連載出版の一般化に向けて急速に舵を切りつつあった当時、小説読者もまた大衆化への道を歩みつつあった。本論文では、Oliver Twistの語りが、小説読者を法廷の群衆として内部化することによって公的な位置づけを行うと同時に、独房で祈りを捧げる主人公の姿を通してその目線を共感が支配する私的領域へと誘導しようとしていることを見出した。もともと〈個〉の生を扱う小説と、一時的な熱狂やセンセーションにアピールしていく大衆メディア文化とでは、内包しているベクトルに相違がある。本論文は、そうしたギャップによってテクスト内に生み出される特有の力場を解明した点において、大きな意義を持つものである。成果は『商学論究』67巻4号において発表した。 上記研究は、初期モダニズム小説の語りとリテラリー・マーケットの変遷との関連を探求する本課題全体において、19世紀末期のジャーナリズムと小説を取り巻く新しい読者層の出現へと至る洞察を提供してくれるものであり、従来にない通史的な群衆表象研究への起点となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ヴィクトリア朝からモダニズムへと至る小説の語りの変化を通史的に探ることを目的とするが、本年度の研究成果によってその重要な起点となる部分が完成を見た。 加えて、Joseph Conradの小説における語りと当時のリテラリー・マーケットのあり方との関連を探るためにイギリスBritish Libraryにおいて資料調査を行い、Conradの初・中期小説の出版にまつわる社会文化的コンテクストを種々調査した。これにより次年度の研究遂行に向けての準備も大きく進捗した。 現在のところ、当初予定していた研究計画を概ね順調に遂行している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度は、これまでの調査・研究成果を踏まえながら、Joseph ConradのLord Jim(1900)、Nostromo(1904)、The Secret Agent(1907)の分析と理論化に取りかかる。イギリスとアメリカにおける同時連載・出版が一般化しつつあった当時の状況や、ニュー・ジャーナリズムの亢進と連動した文芸出版のあり方の変化に注目しながら、リテラリー・マーケットそのものを取り巻く状況の変化がConradの語りにどのような影響を与えたかを探っていく予定である。その際、当時の出版エージェントや文芸誌編集者との関わりにも注意を払っていく。 一次・二次資料の調査に当たっては、国内の図書館での資料調査や購入によって実施していくことを予定しているが、コロナウイルス感染拡大の影響により調査が予定どおりに進まないことも考えられる。状況を判断しながら適切な方法を採ってきたいと考えているが、場合によっては研究計画を変更・延長しなければならない可能性も想定している。
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Causes of Carryover |
海外出張を伴う資料収集に際して、渡航時期の変更により航空券代の差額が生じた。生じた残額は次年度における資料収集や機器購入において使用する予定である。
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Research Products
(1 results)