2021 Fiscal Year Annual Research Report
Changes in the Literary Market and the Formation of Narrative in Early-Modernist Novels
Project/Area Number |
18K00440
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
伊藤 正範 関西学院大学, 商学部, 教授 (10322976)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 英米文学 / イギリス小説 / 群衆 / リテラリー・マーケット / 商業 / 市場 / モダニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度、COVID-19感染拡大の影響により完了できなかったJoseph Conrad, The Secret Agent (1907)の分析と関連先行研究の調査、ならびに当時の新聞資料の解析を実施し、その成果報告作成を行った。 具体的に注目したのは、小説中に登場する3つの群衆表象、すなわちグリニッジ天文台爆破事件の速報を売る新聞販売少年たちが呼びかける通行人たち、路上で「崩れ落ちた馬たち」の見物に群がる野次馬たち、そして背丈の低い、当時のいわゆる「退化者」(degenerate)としての徴候を示すプロフェッサーを取り囲む路上の群衆である。本研究ではそれらの群衆表象に注目しながら、変容しつつあるリテラリー・マーケットへの二重のレスポンスとしてテクストが自らの主題を決定し、同時に新しい語りのあり方を模索していったことを見出した。ヴィクトリア朝期以降の小説研究において、群衆表象の分析を通してテクストの政治的姿勢を探ろうとする試みはこれまでにもなされてきたが、本研究は、The Secret Agentに登場する路上の群衆が当時の新聞読者と直接的あるいは間接的にリンクしていることに着目した点に独自性を有しており、同時にテクストの主題・形式の両面における自己決定が当時の小説そのものを取り巻く商業的環境の変化と密接に連動していることを見出したことによって、従来にない小説論を構築することができた。 上記の成果については “The Secret Agent and Reading Crowds: Dynamite, Fragmentation, and the Novel”として英国コンラッド協会のThe Conradianに投稿し、査読審査を経て修正条件付きにて採択された。
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