2020 Fiscal Year Research-status Report
The Search for Linguistic Modernity in Italy in the 19th century ---- with a focus on Manzoni and Leopardi
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18K00444
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
糟谷 啓介 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 特任教授 (10192535)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | イタリアの「言語問題」 / 言語の近代性 / マンゾーニ / レオパルディ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀イタリアを代表する文学者であるマンゾーニとレオパルディの言語論の比較を通じて、当時の知識人が取り組んだ言語の「近代性」の探究という営為の内実と意味を考察することである。マンゾーニとレオパルディはどちらも言語に関する省察を記した膨大な草稿を残した。本研究は彼らの残した草稿群に分け入って、両者の言語意識の特徴を浮かび上がらせることを目指した。 これまでの研究によって明らかになったのは、マンゾーニがロックからコンディヤックに至るフランス啓蒙主義言語論から言語記号の社会性という認識を引き継いだことによって、現実のイタリア語の状態を改革するような言語政策のプログラムを提示できたという点である。具体的には1868年に発表した言語統一案である。一方、レオパルディの言語論に社会性がないわけではないが、むしろレオパルディはマンゾーニよりも言語記号の動態的な性格を認めており、理性に基づくterminiと想像力に基づくparoleという二つの極を絶えず運動するプロセスとして言語をとらえていた。そのため、レオパルディの言語論には、言語規範を定める方向性は希薄であり、むしろ言語の文明論的考察へと向かった。しかし、この点に関しては考察にまだ不十分な点が残っており、いまだ確定的な結論に至っていないため、2020年度には成果を公表することができなかった。これには、マンゾーニとレオパルディの言語論が膨大な量に及ぶため、両者を比較する作業がきわめて複雑にならざるをえないという事情があった。しかし、両者の言語論の共通点と相違点はほぼ明らかになってきている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は2020年度を最終年度として研究計画を立てたが、予定していたイタリアでの資料調査ならびに収集がコロナウイルスの蔓延のために不可能になった。そのため、研究方法を変更し、もっぱら文献に基づく研究に切り替えるとともに、研究期間を一年間延長した。海外調査ができなかったのは残念であるが、かえって文献読解に時間をかけて取り組むことができるという面もあった。 本研究の全体の計画は、マンゾーニとレオパルディの言語論を二つの軸の交差する地点に設定し、両者を比較するというものであった。ひとつの軸は、18世紀フランス啓蒙主義からくる啓蒙主義言語論の流れであり、もうひとつの軸はダンテ以来つづくイタリアの「言語問題」の流れである。現在までの研究は、両者の言語論における啓蒙主義言語論の影響の査定に集中しており、その点に関しては一定の結論が見えてきた。基本的には、マンゾーニもレオパルディも、言語を観念の記号としての社会的コミュニケーションの道具ととらえる啓蒙主義言語論の見方を採用していたが、その理論における想像力の役割の大きさの違いが両者の言語論の差異を決定的にした。この点が明らかになったことは大きな成果であり、以上の点からみて、現在までの進捗状況は順調であると判断することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には、研究全体のまとめとなる成果の達成を目指す。マンゾーニとレオパルディの言語論に対する啓蒙主義言語論の影響の内実はかなり明らかになったので、今後の研究の方向は、その知見をイタリアの「言語問題」という別の次元へと投影させることにある。「言語問題」の文脈で見るなら、マンゾーニはフィレンツェ口語を規範とみなす立場であり、レオパルディはイタリア共通語としての近代文章語を求める立場にあるとみることができるが、両者がともに敵対していたのが、伝統的フィレンツェ文学語に固執する純粋主義の立場である。しかし、両者の批判の内容には微妙な違いがあり、この点はマンゾーニとレオパルディの言語論の性格の違いを浮き立たせるものである。事実、1300年代のフィレンツェ語を絶対視することで当時かなりの反響を呼んだチェーザリの『イタリア語の現在の状態について』(1808)を検討するなら、当時のイタリアにおける言語意識のひとつの重要な側面を明らかにすることができる。さらに、マンゾーニ主義と密接に関連して検討する価値があるものとして、ルッジェロ・ボンギの『なぜイタリア文学はイタリアで民衆的ではないのか』(1856)がある。これらの著作を総合的に再検討することで、19世紀イタリアの言語と文学が直面していた問題を明らかにすることができると思われる。研究の実施方法としては、文献読解作業と並行して、イタリアでの資料調査ないし資料収集を行ないたいが、2021年度のコロナウイルスの感染状況がいかなるものであるかは予測がつかないので、海外渡航が不可能になった場合には、もっぱら文献資料に基づく研究へと切り替える予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は、コロナウィルスの感染拡大により、予定していた海外での調査活動が不可能になったため、研究を一年延期することを余儀なくされた。2021年度には、2020年度に遂行できなかった研究作業を着実に実施する計画である。
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