2021 Fiscal Year Research-status Report
The Search for Linguistic Modernity in Italy in the 19th century ---- with a focus on Manzoni and Leopardi
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18K00444
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
糟谷 啓介 一橋大学, その他部局等, 名誉教授 (10192535)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イタリア語 / マンゾーニ / レオパルディ / 近代性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度も新型コロナ感染症の影響で海外渡航ができなかったため、現地調査は行わず、文献研究に専念した。研究課題として、レオパルディにおける言語の近代性の問題の考察を進めた。詩人であった一方で、ギリシア語、ラテン語などの古典語だけでなく、ヘブライ語やヨーロッパの他の現代語にも精通していたレオパルディは、言語がそれぞれの時代と社会の刻印を受けた個性をもつことを認識していた。ここで問題となるのは、レオパルディが近代という時代をどのようにとらえたかである。詩作品のなかでも批評においても、レオパルディは近代の過度な物質主義と合理主義を厳しく批判したが、だからといってレオパルディが反近代的なロマン主義者であったかというと、これも疑わしい。この点に関しては、レオパルディはほかのロマン主義者と共通する要素をほとんどもたないとする有力な議論が存在する(Mangaldo)。ここで視野に入れるべきは、ドイツの哲学者ニーチェがレオパルディに下した評価である。ニーチェは「われら文献学者」という草稿のなかで、同時代のドイツの文献学者の権威主義的な態度を手厳しく批判した。ニーチェによれば、当時の文献学者はドイツの教育界を牛耳り「青年を古代文化によって教育しようともくろむ共謀集団」なのである。しかし、ニーチェがただひとり現代における理想の文献学者とみなした者がいる。それがレオパルディなのである。ニーチェはレオパルディのどこに引きつけられたのかという問いを通じて、言語、文献学、近代をめぐるさまざまな考察が導き出された。最終的に、ニーチェやレオパルディの近代批判は、近代の単純な否定を意味するのではなく、むしろ近代性に対する鋭い自覚によって支えられていたことがわかった。このように、ニーチェという補助線を引くことで、レオパルディにおける近代性の特質をさらに明瞭にとらえることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度には海外調査ができなかったが、その代わりに充実した文献研究を進めることができた。とりわけ、当初は予想していなかったニーチェとレオパルディの結びつき、とくに文献学をめぐる両者の態度と言語の近代性をめぐる両者の考察には深い親縁性が存在することを発見したことは、本研究にあらたなパースペクティブをもたらす認識であった。このことは、マンゾーニとレオパルディの言語思想の比較をおこなう際にも、有効な視点を提供してくれる。その意味で、2021年度における研究は、おおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度として、2022年度はこれまでの研究を総合的にまとめる作業に着手する。まずおこなうべきは、マンゾーニとレオパルディの言語思想の比較をおこなうに際しての明確な軸を設定することである。これまでの研究から明らかになったように、マンゾーニとレオパルディの言語思想の根底には18世紀フランスの啓蒙主義哲学がある。しかし、それにもかかわらず両者の言語思想の方向は正反対といってもよいほどの性格の違いを有する。この差異はどこに発するのかという問いを立てるうえで、レオパルディには歴史文献学的視点があったのに対し、マンゾーニにはそれが決定的に欠けていたという点を考察の導きの糸とする。そして、レオパルディとニーチェの比較もおこないながら、19世紀イタリアにおける言語の近代性の探求の全体像の解明にとりかかる。もう一つの作業は、海外出張が可能になることが条件となるが、イタリアにおける調査をおこなうことである。とくに、レオパルディの生地であるマルケ州のレカナティを訪問することは、2022年度の大きな目標のひとつである。その町のレオパルディ博物館(Casa Leopardi)を訪れることはレオパルディ研究に欠かせない一環であるだけでなく、レオパルディがなんとか逃れようとした地方都市レカナティの雰囲気を肌で感じることも、研究にとって必須の動因となると思われるからである。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、海外出張ができなかったことである。しかも年度内に出張が可能になるかどうかの判断が最後までつかなかったため、明確な執行予定を立てることができず、他の費目の使用にも影響が生じた。2022年には、おそらく海外出張が可能になると思われるため、旅費、物品費、謝金等の全体の使用計画をバランスよく立てることことができる。主要な費目としては、1~2週間程度の海外出張と文献購入費、ならびに研究遂行のための備品購入をおこなう予定である。
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Research Products
(1 results)