2020 Fiscal Year Research-status Report
The Black Celts: Analysis of the racial discourse on the Celts in the 19th-century Celtic Fringe
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18K00447
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
森野 聡子 静岡大学, 情報学部, 教授 (90213040)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香戸 美智子 京都外国語大学, 外国語学部, 教授 (60748713)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 形質人類学 / ケルト人種 / ヴィクトリア朝ウェールズ / 血清学 / 民族性 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、2020年11月29日にZoom によって開催された日本ケルト学会第40回研究大会のシンポジウム「ケルト的連帯の歴史」において、「ウェールズのアイステズヴォッドにおける『パン・ケルティシズム』」という題目で研究発表を行った。これは、19世紀のケルト諸語地域において、ケルト語とケルト人種という共通の絆に基づく連帯意識が、各地域の民族意識とどのように関わって発展したのかを比較する研究の一環であり、民族学・人類学・歴史学等における人種的言説を扱ってきた本研究のこれまでの調査を補完する一定の成果をあげた。ウェールズにおいてはケルト的連帯への関わりは受動的で、アイステズヴォッドというイベントにおける文化交流の次元にとどまっており、ケルトというアイデンティティに基づく民族運動といった政治性とは無縁であった。すなわち、ヴィクトリア朝ウェールズにおけるアイデンティティ・ポリティクスは、ケルト人種としての自己定義よりも連合王国という枠組みのなかでのイングランドとの協調関係を前提に構築された点、他のケルト諸語地域とは異なることが改めて確認された。同時に自らを原住民との混血とするウェールズの人種意識を、この文脈から解明する必要性も明らかになった。 研究分担者は、2019年に開催された国際ケルト学会において、ケルト諸語地域のヒト集団に関する近代科学的アプローチとして19~20世紀の形質人類学および血清学研究に見られる諸研究をたどり、人種主義的科学とは別個の科学的研究の意義を発表した。その研究成果を受け、2020年度には血液型頻度による人類学的研を行ったウェールズ出身の医務官モーガン・ワトキン(I. Morgan Watkin, 1916-2011) について、ウェールズでの現地調査を行う予定だったが新型コロナウィルスの世界的蔓延のため実現できず、文献による予備研究に従事した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、日本国内では入手困難な19世紀のウェールズ語文献や、図書館のアーカイブにある手稿・書簡等を一次資料として使用することが前提となっている。しかしながら、2020年度は、新型コロナウィルスの世界的流行による海外渡航が制限され、予定していた海外現地調査が実施できず、国内で入手可能な文献調査を中心とした研究に限定せざるをえなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、日本ケルト学会記念論文集(2021年度刊行予定)に寄稿した論考「ケルト人種はなぜ「黒い」?――ヴィクトリア朝におけるケルト人種論の展開――」において、19世紀におけるケルト人種混血論の形成過程を考察した。2021年度は、この言説のウェールズにおける受容について詳細に調査する予定である。大陸から移民したケルト人が、ブリテン諸島に先住する非インド=ヨーロッパ語族イベリア人と混血したという人種言説は、ウェールズの代表的な文献学者で、オックスフォード大学初代ケルト学講座教授ジョン・フリース(John Rhys, 1840-1915)および彼の弟子たちによって、民族学・歴史学・言語学等の分野で広く受容された。その中でも、19世紀末から20世紀初頭にかけてウェールズ語の正字法や文法の近代化を先導したジョン・モリス=ジョーンズ(Sir John Morris-Jones, 1864-1929)、出版を通じて民衆教育に貢献したO・M・エドワーズ(Sir Owen Morgan Edwards,1858-1920) について、ウェールズ国立図書館所蔵のウェールズ語文献を中心に調査したい。研究分担者は、上述したワトキンを中心とする詳細な文献資料をウェールズ国立図書館やブリティッシュ・ライブラリーで収集調査し、19世紀の形質人類学者による研究に続き、20世紀において血清学を使用する科学的研究によって何が明らかにされようとしたのか、或いは明らかになったのかを、種々の記録物等による社会史研究として扱う予定である。こうした調査を通じ、ウェールズに住む、または所縁のある科学者たちが、自らの生物学的・遺伝学的特殊性を、差別・序列的な従来の科学的人種論にむしろ対抗するものとして肯定的に論じていった可能性を明らかにすることができると判断する。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルスの世界的流行により、当初予定していた海外調査および国内での学会・研究会のための出張ができず、旅費として使用を計画していた予算が未使用となった。2021年については、今後のコロナウィルスの蔓延状況にもよるが、研究代表者・研究分担者ともに海外調査を行うことを計画しており、次年度使用額は、その経費に充てる予定である。
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Research Products
(1 results)