2022 Fiscal Year Research-status Report
The Black Celts: Analysis of the racial discourse on the Celts in the 19th-century Celtic Fringe
Project/Area Number |
18K00447
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
森野 聡子 静岡大学, 情報学部, 名誉教授 (90213040)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
香戸 美智子 京都外国語大学, 外国語学部, 教授 (60748713)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ケルト人種論 / ウェールズ / アイルランド / イングランド / 幻想的ケルト人 / 血清学 / フォークロア研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、ケルト人種に特有の気質があるとする言説(P.SIms-Williamsによれば the visionary Celts)のケルト諸語圏における受容について調査を行った。ケルト人種の詩的感受性は特に妖精伝承に関連付け語られる傾向があるが、ウェールズの場合、妖精はケルト人到来以前の「イベリア系先住民」の痕跡として説明される傾向がある。たとえばJohn Rhys (1840-1915) は、妖精と結婚した男が妻を鉄で叩くというタブーを犯すモティーフは、鉄器の使用を知らなかったイベリア人の鉄への恐怖を表していると考えた。2022年度は、ウェールズのフォークロア研究における人種論を考察する手始めに、ウェールズの代表的妖精伝承である「スリン・ア・ヴァン・ヴァッハの伝説」の翻訳と、この伝承が採集・出版された背景を調査した。その結果、湖の乙女に関するこの民話が紹介されたのは1809年が最初であり、当初はマズヴァイの医者と呼ばれる、名医として知られた医師の家系の起源及び地名由来譚として解釈されていたものであり、イベリア系先住民との関連は、ブリテン島の人種構成に関する歴史学や考古学・人類学の言説が構成される19世紀末のことであることが改めて確認された。一方アイルランドにおいては、脱イングランド化の旗印のもと推進された19世紀末の文芸復興においては、ケルト人種の精神性や中世の華麗な修道院文化(ケルト文化とされた)を積極的に取り上げており、それがフォークロア収集やアイルランド自由国の政策にも反映されていることが明らかになった。 研究分担者は当初計画していた海外調査が新型コロナウィルスの影響の長期化を受けて行えなかったため、二次資料の文献収集やその他関連する知識情報の獲得理解に努めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者については、ブリテン諸島のケルト諸語地域住民を生物学的に黒人と結びつける形質人類学や歴史学上の言説の形成過程と、ウェールズ及びアイルランドにおける、こうしたケルト人種論の受容の差異に関して、文献調査で確認できる範囲で明らかにした。また、その成果を日本ケルト学会の論文集の一部として2023年度に刊行予定であり、当初予定していた成果をほぼ達成したと判断する。一方、海外調査が行えなかったことから、2022年度は中心課題にかかわるテーマとしてケルト人種論とウェールズ・アイルランドのフォークロア研究との関係について調査したが、これについてはまだ確実な成果が出ておらず、引き続き資料収集や考察を進めたい。 研究分担者については、研究の当初から、日本では入手困難な文献や資料調査を大英図書館や関連する組織・機関において行うことを予定しており、2020年度より新型コロナウィルスの影響で海外渡航が実行できなかったことから、研究は遅延している状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、ケルト人種論における「ケルト人気質」に関する言説に関して研究を進めることを計画している。この Ernest Renan ~ Matthew Arnold ~W. B. Yeatsと続く、いわゆるケルティシズムの系譜についてはすでに先行研究があるが、この言説がウェールズとアイルランドにおける民族的アイデンティティの形成に与えた影響の差異に関してはあまり研究されていないため、その点に注目して調査を行いたい。また、ケルティシズム的言説は大正期にアングロ=アイリッシュ文学の受容とともに日本にも紹介されており、現在に至るまで「ケルト文学」に対する一般的イメージを形成している。2023年度、オランダで開催される第17回国際ケルト学会では、日本と中世ウェールズ文学に関するセッションの一環として、中期ウェールズ語散文物語「マビノギオン」を翻訳する作業を通じて見えてきた、日本におけるケルティシズムに関して研究発表する予定である。 研究分担者は、19世紀以降の科学的言説におけるケルト人の表象について、特に、20世紀初頭に発展する血清学に焦点を当てた分析を行うため、大英図書館ほか関係機関での海外調査を実行することで、当初の計画の遂行を予定している。
|
Causes of Carryover |
2022年度に予定していた海外調査が新型コロナウィルスの影響の長期化によって実現しなかったため。2023年度については2023年7月24日~28日 の期間、オランダのユトレヒト大学で開催される第17回国際ケルト学会で研究発表を行う予定であり、その渡航費・滞在費等に使用する計画である。また、フォークロア研究におけるケルティシズムや人種論の影響に関連した文献資料の購入などを予定している。
|
Research Products
(2 results)