2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00448
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松澤 和宏 名古屋大学, 人文学研究科, 名誉教授 (30219422)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | フローベール / 「純な心」 / 宗教 / 赦し / 愛 / アイロニー / 聖性 / 草稿研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画の即してフローベール文学の倫理的宗教的側面について2本の論文を発表し、またフランスでの研究発表を行った。 (1)「フローベール『純な心』における愛と信仰とアイロニー」、名古屋大学人文学研究論集、第3号、名古屋大学人文学研究科, 2020年3月, 105-123 頁(査読論文)。近年のフローベール研究は、作家最晩年の作品「純な心」をもっぱらアイロニカルな作品と捉えてきたが、作家の草稿における執筆過程の分析や先行研究の批判的検討を通してこの作品が主人公フェリシテの愛の創造性を、その悲劇的側面とともに描いていることを、これまでに指摘されてこなかったオバン夫人の変貌を通して明らかにした。 (2)「フローベールの「写実主義」の形而上学的宗教的次元についてー『ボヴァリー夫人』から『純な心』へー」 , Variete nunero special 2019、名古屋大学文学部・人文学研究科フランス語フランス文学研究室, 2019年11月, 21-39頁。『ボヴァリー夫人』と『純な心』はともに同じプランを母胎として誕生した作品であるが、前者の結末近くでのシャルル・ボヴァリーが亡き妻エマの愛人を一方的に赦し、自然の中に溶け込むように死んでいく場面に愛と赦しをめぐる宗教的主題の顕在化を読み取り、それが『純な心』における無学なフェリシテの聖性に繋がってくることを、通説の批判的検討を通して、明らかにした。 (3) La reception de Chateaubriand au Japon (シャトーブリアン学会、2019年6月15日、エコール・ノルマル・シューぺリュール、パリ) フローベールが大きな影響を受けたシャトーブリアンの日本における受容について研究発表を行なった。近くシャトーブリアン学会誌に論文(査読あり)は刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フローベール最晩年の「純な心」について2本の論考を発表したが、最晩年において作家に大きな転回が生じていたというアルベール。チボーデのかつての(今日では忘れられている)指摘を裏付ける結果となった。現在は最晩年の変化が突然生じたものではなく、青春期から常に潜在していた倫理的宗教的な主題が葛藤を経て顕在化したものという見通しがより明瞭になってきた。晩年のジョルジュ・サンドとの知的交流が、『純な心』執筆に影響を与えていることはすでに指摘されてきたことであるが、その影響の核心は、フローベールに倫理的宗教的主題を積極的に取り上げるように促したことにあることが、書簡と作品の読解を通して明らかになってきたことは成果と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後2年間では、(1「純な心」を含む最晩年の短編集「三つの物語」はいずれもキリスト教の聖人を主題としている。作品の宗教的倫理的読解に努めると同時に、(2)青春期から主要作品(『ボヴァリー夫人』『サランボー』『『感情教育』『ブヴァールとぺキュシェ』)を読み直し、倫理的宗教的主題がどのように扱われているのかを、作家の思想的葛藤との関係で明らかにしていきたい。(3)以上のことと並行して作家の思想的な葛藤を、書簡を手掛かりにしながら、彼に影響を与えた同時代の作家や思想家との関係で明らかにしていきたい。特に同時代のダーウィン主義やモーリー、ルナン、スペンサーなどの思想家を作家は特に高く評価しており、その影響関係は極めて重要なものとなると思われる。
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