2018 Fiscal Year Research-status Report
C. M. ヴィーラントのコスモポリタニズムと同時代言説
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18K00449
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
菅 利恵 三重大学, 人文学部, 教授 (50534492)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヴィーラント / 啓蒙思想 / コスモポリタニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヴィーラントChristoph Martin Wieland の言説に注目して、市民知識層の政治的自意識形成の過程においてコスモポリタニズムが持った意義を明らかにしようとするものである。同時代の市民社会論やパトリオティズムの言説と比較することを通して、ヴィーラントによるコスモポリタニズムの特徴を抽出することを目的としている。 本年度はまず、彼が初めてコスモポリタニズムのテーマを本格的に扱った小説『ディオゲネスの遺稿』の分析に取り組んだ。このテクストは、古代ギリシアに生きたコスモポリタンの姿を借りて啓蒙の理念に具体的な肉付けを与えようとするものであり、そこには「離脱」への志向というヴィーラントのコスモポリタニズムの基本的な方向性が明らかにされているとともに、コスモポリタニズムと啓蒙の社会理論との関係性が明確に示されている。すなわち、「自然状態」を想定して社会の成り立ちをとらえようとするコスモポリタンの思考の枠組みは、同時代に広く浸透していた社会契約論と深く結びついたものであった。この分析は論文にまとめて所属大学の紀要に発表した。 この分析を通して、コスモポリタニズムの批判的な意義を明らかにするためには社会契約の思想との比較検討が有効であると確信するにいたり、本年度の後半においては、17世紀以降の社会契約論の系譜を洗い直しつつ、ヴィーラントが彼の発行する雑誌で展開させていた市民社会論やフランス革命に対する論評を読み込んだ。現在は、その成果を論文や研究発表にまとめる準備を進めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究においては、ヴィーラントのコスモポリタニズムの特徴として「離脱」への志向ということを指摘し、その思想史的背景に同時代の社会契約論があることを明らかにした。この研究によって、彼のコスモポリタニズムの批判的な意義を明らかにする、という本研究全体の目的にとって、重要な視点を得ることができた。今後は本年度の成果をもとに彼の政治理論を読み込み、ルソーの社会契約論やカントの市民社会論との比較から、ヴィーラントの言説の特徴や意義を明らかにする予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究を通して、啓蒙時代におけるコスモポリタニズムの特徴や意義を明らかにするためには社会契約論が極めて重要であることに気付かされた。この知見に基づいて、すでに17世紀以降の社会契約論の系譜を確認し、政治的な主題について書かれたヴィーラントの文章を網羅的に読み込む作業に着手している。今後は、この成果をまとめ上げて論文や学会の場で発表して世に問い、研究の次の段階につなげる。まずはルソーやカントの市民社会論との比較を通してヴィーラントのコスモポリタニズムの輪郭をより明確に示したい。
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Causes of Carryover |
当初は啓蒙時代のパトリオティズムの文献を収集するために渡独することを計画していたが、研究の過程で社会契約論の思想に重点が移り、本年度については渡独の必要性が生じなかった。しかし今後は、最新の研究成果を集め、18世紀ドイツ語圏におけるコスモポリタニズムや社会契約論の言説をより詳しく知るために、複数回渡独することも必要になってくる。今年度使用しなかった額については、渡独滞在費とさらなる文献購入にあてることになる。
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