2019 Fiscal Year Research-status Report
C. M. ヴィーラントのコスモポリタニズムと同時代言説
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18K00449
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
菅 利恵 三重大学, 人文学部, 教授 (50534492)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ヴィーラント / コスモポリタニズム / 啓蒙主義 / 公共圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究では、ヴィーラント のコスモポリタニズム と啓蒙時代の社会思想との結びつきを明らかにした。これをふまえて、本年度は、17世紀以降の社会契約論の系譜の上にヴィーラント の言説をとらえなおし、その市民社会論やコスモポリタニズム をめぐる言説をルソーらの思想との比較においてさらに深く分析した。 「自然状態」を想定しつつ、「社会契約」を通した市民社会の形成を考えたルソーの言説が、個々人の「市民」としての主体化を前提としたものであったのに対して、ヴィーラント の市民社会論においては、「自然状態」(ヴィーラント の場合これ自体ルソーとは異なり「社交的な」ものとして想定されている)の道徳的価値を体現した「人間」としての存在形態を維持することが構想されており、「市民」に回収されない「人間」という存在形態の肯定的な具体像として、「世界市民」が考えられている。本研究では、ヴィーラント における市民社会論とコスモポリタニズム の構造をこのように抽出した上で、彼のコスモポリタニズム が市民的公共圏の形成過程において有した意義について論じた。すなわち、ヴィーラント の言説において「世界市民」という存在形態の道徳的な価値は、なによりも曇りのない批判性ということに見出されており、コスモポリタン的な主体は、特定の利害や立場にとらわれることのない公平な判断の主体として考えられている。そのような主体像はそれ自体虚構的なものであるが、この虚構的な主体像こそが、市民的公共圏の理念的な基盤をなしてもいたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度における研究の目標は、ルソーやカントの市民社会論との比較を通してヴィーラントのコスモポリタニズムの輪郭をより明確に示すことであった。この目標は、学会発表と論文発表を通してほぼ予定通り達成したと思う。「自然状態」をめぐるルソーとヴィーラント の違いの詳細や、社会契約論をめぐるヴィーラント の言説の変化、またヴィーラント とカントのコスモポリタニズム の違いなど、研究中に調べたものの今年度の学会発表や論文の枠の中にはおさまらなかった部分も残っているので、その点は今後の研究で引き続き深めることにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においては、ヴィーラント とカントのコスモポリタニズム の共通点と相違点についてより深く調べる。両者のコスモポリタニズムは、疎外された存在としての知識人の自意識とも結びついており、マイノリティの権利擁護につながるような論理を(きわめて不完全とはいえ)内包させてもいた。ホミ・バーバがヴァナキュラー・コスモポリタニズム の名を冠して語った「ナラティブの権利」の端緒を、彼らのコスモポリタニズムの言説にどの程度見出しうるのか、考察を深めたい。また、ヴィーラント のコスモポリタニズム の特徴と意義をより明確に示すために、ユストゥス・メーザーの『郷土愛の夢』や、ヘルダーの『人類の歴史哲学考』など、愛国の文脈で語られる論者たちに見られた、文化的な多元主義の傾向にも注目する。それらの論考では、特定の価値観や規範を普遍化することを批判し、それぞれの地方の慣習や特色に注目し、地方共同体の多様性を擁護する立場が打ち出された。このような立場は、自文化の絶対化を避ける点でコスモポリタニズム とも重なるが、個と共同体との関わりという点で見たときに、両者は大きく異なってもいた。次年度はこの違いを、メーザーやヘルダーの言説を詳しく分析することを通して示したい。
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Causes of Carryover |
校務との関係で、予定していた海外調査に赴くことができなかった。未使用額は、次年度における海外調査と文献購入にあてる。
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