2020 Fiscal Year Research-status Report
C. M. ヴィーラントのコスモポリタニズムと同時代言説
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18K00449
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
菅 利恵 三重大学, 人文学部, 教授 (50534492)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コスモポリタニズム / ユストゥス・メーザー / ヴィーラント / マルチカルチュラリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度の研究では、ヴィーラントによる社会論を通してコスモポリタン的な主体像と市民的公共圏のかかわりを明らかにした。ヴィーラントに代表される啓蒙時代のコスモポリタニズム は、自らが組み込まれた政治的、また文化的な文脈からあえて一定の距離をとり、そのことによって知識人としての道徳的、批判的立場を維持しようとする立場としてとらえることができる。このような立場が持った同時代的な意義や問題性をより深く明らかにするために、本年度は、コスモポリタニズム との比較対象として、ユストゥス・メーザーの言説に注目した。メーザーは、オスナブリュックを地盤として活躍し、地方に根ざした経済体制や文化の重要性を説いた。個々の場所に蓄積された文脈に注目し、その上にしか豊かな文化や社会は構築し得ないと説いた彼の議論は、ヘルダーとともに18世紀後期ドイツ語圏における文化的多元主義の潮流を形作っている。本年度は、『郷土愛の夢』を中心とするメーザーの社会論、文化論を分析し、彼の文化的多元主義の射程を確認するとともに、その問題性も指摘した。すなわちメーザーの言説においては、地域に根ざした文化の多様性が尊重される一方で、特定の文化的集団内における差異や多元性には十分な配慮が与えられていない。彼の立場は、異なる文化の尊重という姿勢が導きだされる点においてコスモポリタニズム と重なるが、個と共同体とのかかわりという観点から見るならば、共同体への埋没を一貫して否定したコスモポリタニズム とは大きく異なっているといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コスモポリタニズム との比較対象としてユストゥス・メーザーらの文化的多元主義の分析を進める、という本年度の研究内容は、当初の研究計画にそくしたものである。この研究の成果は論文にまとめ、学会誌に発表しており、研究はおおむね順調に進展しているといえる。ただ、コロナ感染拡大のために本来予定していたドイツでの文献収集を行うことができず、またオスナブリュックのメーザー協会をたずねる計画もかなわなかった。メーザー協会を訪れて、現在におけるメーザー受容を確認するという課題は、次年度に持ち越すかたちとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
ヴィーラントやカントのコスモポリタニズム の中核には、所与の文脈を超え出る、という基本姿勢があり、この姿勢こそが彼らの道徳論の基盤ともなっている。その一方で、与えられた文脈から離脱するというコスモポリタニズム の前提は、エリート主義的な排他性にもつながる危険性を持つ。2021年度は、ヴィーラントやカントのコスモポリタニズム のこうした両義性についてより詳しく分析し、その可能性と限界を総括したい。その際、前年度の研究成果をもとに、メーザーらの文化的多元主義の言説とヴィーラント、またカントのコスモポリタニズム との比較分析を深化させ、18世紀後期の文化的多元主義に内在する可能性と矛盾がヴィーラントらのコスモポリタニズム とどのように交錯するのか、探りたい。それによって、コスモポリタニズム の同時代的な意義をより明確に示すことができると考える。さらに、これまでの研究成果を学会発表や論文発表で世にとうことにも力をそそぐ。学会では、啓蒙時代から20世紀初頭までのコスモポリタニズムの展開 を概観するシンポジウム行い、ヴィーラントらのコスモポリタニズム を、現在まで続くコスモポリタン的言説の発展の中に位置付けなおすことを試みる。
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Causes of Carryover |
(理由)ユストゥス・メーザー生誕300年にあわせてメーザー協会をおとずれ、現代におけるメーザー受容を確認するとともに最新の文献の収集を行う予定だったが、コロナ感染拡大のためにドイツ渡航がかなわなかった。 (使用計画)現地調査および成果発表に使用する予定である。
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