2021 Fiscal Year Research-status Report
C. M. ヴィーラントのコスモポリタニズムと同時代言説
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18K00449
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菅 利恵 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50534492)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヴィーラント / コスモポリタニズム / 啓蒙思想 / カント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ヴィーラントのコスモポリタニズム思想の意義や特徴を明らかにするにあたって、そこに所与の社会制度を超え出ようとする姿勢が顕著に見られる点に注目してきた。この姿勢は、しがらみや因習に惑わされない道徳的立場の表現であると同時に、コスモポリタニズムがエリート主義的な排他性につながる契機ともなっている。2021年度は、カントとの比較を通して、彼らのコスモポリタニズムの両義性についてより詳しく分析し、その可能性と限界を総括した。道徳的姿勢としてのコスモポリタニズムの可能性が、最もよくあらわれているのは、言論の自由のテーマにおいてである。領邦君主の恣意的な検閲が残る時代にあって、ヴィーラントは、文芸誌を発行して自由な言論の場の育成に尽力し、その論考で言論の自由を繰り返し主張した。この主張は、彼のコスモポリタンとしての立場と直接結びついていた。本研究では、ヴィーラントと同じくコスモポリタニズムと言論の自由の主張を結びつけた同時代の知識人として、カントに注目し、そのコスモポリタニズム思想を分析した。その上で、二人のコスモポリタニズムが、理性的主体による自由な発言の場という市民的公共性の理念の深化にとって、決定的な意味を持つことを示した。同時に、彼らのコスモポリタニズムにおいて想定されるコスモポリタン的主体があくまでも「知識人」であり、その点に彼らの構想の限界があったこと、およびカントの『永遠平和のために』の中に、そのような限界を乗り越える契機を見出すことができるという点についても論じた。これらの研究成果は、日本独文学会のシンポジウムで発表した。このシンポジウムは、啓蒙時代から20世紀までのコスモポリタニズムの展開を概観するものであり、シンポジウム準備のための共同研究通して、ヴィーラントの言説が、現在まで続くコスモポリタニズムの発展史にどのように位置付けられるのかが明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ヴィーラントのコスモポリタニズムの特徴や意義を、同時代の知識人たちの言説との比較検討を通して明らかにするという当初の計画は、順調に進んでいる。本年度は、カントのコスモポリタニズムを分析して、これとの比較を通してヴィーラントの言説の持つ同時代的な意義を明らかにした。本年度の研究が、当初の計画を超えて進展したと考えられるのは、学会でのシンポジウムを企画したことをきっかけとして、個人研究として計画されていた本研究が、共同研究に発展したからである。このシンポジウムでは、19世紀と20世紀の思想や文学にみるコスモポリタン的な表象や表現を、5名の発表者がそれぞれの問題関心から分析し、発表した。19世紀にナショナリズムが本格的に始動して以降のドイツ語圏で、コスモポリタニズムやコスモポリタン的な立場がどのような形で保存され、また新たな様相を見せたのか。そうした展開をふまえてあらためて検討しなおすことによって、ヴィーラントのコスモポリタニズムを、より広い歴史的文脈の中でとらえることが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、シンポジウム企画をきっかけとする共同研究を通して、ヴィーラントのコスモポリタニズムを、より広い視野のもとにとらえ直すことが可能になった。本年度の研究においては、19世紀以降の歴史的展開や、現在様々に打ち出されているコスモポリタニズム理論をふまえた上で、ヴィーラントや、彼に代表される啓蒙時代のコスモポリタニズムの特徴や意義を総括する。その際には、とりわけアクチュアルな問題関心との接続を意識したい。国際的な共生の仕組みがあらためて切実に求められている現在、コスモポリタニズムは重要な転機を迎えている。国際的な格差の是正や戦争の回避といった観点から、すでに様々な論者がコスモポリタン的な連帯の構想に力をそそいでおり、この流れは一層強化されなければならない。過去の思索の検証も、あらためてアクチュアルな意味を帯びている。現在、シンポジウムの参加者に新たな執筆者も加えてドイツ語圏におけるコスモポリタニズムの展開を多面的に論じた共著書を作成中である。この出版を通して本研究の成果を広く世に問い、コスモポリタン的な文化や制度を活性化させる一助となることを目指したい。
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Causes of Carryover |
感染症のために海外渡航が難しくなり、予定していた旅費が使用できなくなったため、未使用額が生じた。この額は、次年度の研究に必要な書籍と物品の購入にあてるとともに、研究成果公表のための出版費用とする予定である。
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