2022 Fiscal Year Research-status Report
新聞・雑誌を通して1800年前後のドイツ文学の公共圏への関与を明らかにする試み
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18K00450
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
亀井 一 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00242793)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ジャン・パウル / メディアと文学 / 雑録 / 『エレガントな世界のための新聞』 / カール・シュパツィア / Nicolas Pethes / 『カッツェンベルガー博士の温泉旅行』 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間第5年度は、当初計画に従って、ジャン・パウルの文学テクストと同時代の新聞・雑誌の関係を探った。2019年夏のマールバハでの調査で、出版者ヨーハン・フリードリヒ・コッタの資料集に、ジャン・パウル、ジャン・パウルの家族との手紙が残されていることを確認していた。コッタから出た『朝刊新聞』との関係、さらに、ジャン・パウルの没後に続く全集編纂について、出版者サイドからの研究が期待されたが、新型コロナウィルス感染状況について見通しがたたず、断念した。 そこで、研究期間第1年度から三年にわたって取り組むことになった書評紙(『ドイツ一般文庫』、『一般文学新聞』)研究の成果を取り入れつつ、ジャン・パウルと同時代批評の関係を探ることにした。同時代批評調査は、クルト・ヴェルフェルが『ジャン・パウル年報』発刊当初 (1966) から手がけていたのだが、78年から88年まで、4巻の年報にまとめられている。ジャン・パウル受容については、1980年に、ペーター・シュプレンゲルが、20世紀に至るまで追跡している。これらの資料を活用し、ジャン・パウルの同時代批評、批評紙の文学作品への影響について調査に取りかかった。 ところが、まさに同じタイミングで、ニコラス・ペテスによる研究書『雑録 ジャン・パウルの小説=アンソロジー カッツェンベルガー博士の温泉旅行 (1809)』(2022)が刊行され、ドイツでも、新聞・雑誌との関連で文学研究が進められていることが判った。早速、小説『カッツェンベルガー博士の温泉旅行』に掲載されている11篇の「小品」と、その初出記事を調べ、ペテス論文を精査した。後期ジャン・パウルの創作活動を考える上で、コッタの『朝刊新聞』とならんで、義理の兄にあたるカール・シュパツィア編集の『エレガントな世界のための新聞』が大きな役割を果たしたことが判った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
同じテーマの研究が、予期せず発表されたため、計画を変更せざるを得なかった。また、研究期間が、コロナウィルス感染拡大期に重なっていたこともあり、全体的に、研究が遅れがちだった。調査は、研究計画に沿って行っているが、成果発表が滞っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究6年目になるので、当然のことながら、調査よりも成果発表を優先する。考察のテーマを列挙すれば以下のようになる。 a) 1801年1月に創刊された『奢侈とモードのジャーナル』とともに始まったと言われるドイツのモード情報誌について、読者層、社会的背景との関連、本研究でテーマになった啓蒙的な書評紙との対比から、その文化史的な意味を明らかにする。 b) ジャン・パウルと新聞・雑誌の関係を明らかにする。ジャン・パウルは独学で、同時代の神学、哲学を学んだのだが、そのツールになったのは、主に『一般ドイツ文庫』といった書評紙だった。小説には、避雷針、動物磁気といった同時代のトピックが取り挙げられ、「郵便日」、「通信員」、「号外」といった新聞・雑誌の形式を使っている。しかし、しばしば、同時代の情報メディアを批判的に描いている(『フィーベルンの生涯』)。 c) 小説『カッツェンベルガー博士の温泉旅行』には、ジャン・パウル自身が新聞・雑誌に雑録として寄稿した記事が再録されている。特に第一版は、作品全体が、雑録の形式をとっていることは、ペテスの指摘する通りである。しかし、ジャン・パウルの意図は、作者に無断で出版されたアンソロジーに対する抗議だった。著作権という観点から、小説家の作品と新聞・雑誌の雑録の関係を検討する余地がある。 上記のテーマを組み合わせて、あるいは、個々別々に発表すると同時に、研究全体で得られた知見を、判りやすい形にして、一般向けに発信することも考えてみたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響で延期されているマールバハ図書館での調査の可能性を残しておくために、研究費を残した。延長年度に入るので、成果発表を優先させる。残金は、発表のための旅費、文献調査を中心に使用する。
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Research Products
(1 results)