2020 Fiscal Year Research-status Report
ロシア・ネオ・アヴァンギャルド文学の美的原理とタイポロジー
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18K00452
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
Grecko Valerij 東京大学, 教養学部, 特任准教授 (50437456)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アヴァンギャルド / ロシア芸術 / ロシア現代詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀初頭の芸術に世界規模で影響を与えたロシア・アヴァンギャルド運動は、ロシア革命後ソ連当局によって暴力的に活動を阻止され、その後はごく小規模に非公式な形でしか存在しなかった。ソ連崩壊後、政治的抑圧から解放されて、ロシア・アヴァンギャルドの後継を自認するネオ・アヴァンギャルド芸術運動が始まり、急速に発展して、非常に興味深い活動を展開している。本研究の目的は、ネオ・アヴァンギャルドの多様な芸術活動のうち、特に文学に焦点を当て、①新旧アヴァンギャルドの歴史的・美的関係と、②ネオ・アヴァンギャルドに特徴的な美的形式を明らかにした上で、③多岐にわたるネオ・アヴァンギャルド芸術活動の類型化を試みることである。 2020年度も前年度に引き続き、ネオ・アヴァンギャルドの文学テクストを文体・形式の面から分析し、歴史的アヴァンギャルドから受け継がれたものと新たに作り出されたものとを区別することだった。S. ビリュコフ、E. ステパーノフ、A. パルシコフ等の作品を具体的に分析した結果、ネオ・アヴァンギャルドの詩に見られる多言語性を次のように類型化できることがわかった。1)状況的多言語性:詩人が母語環境にはない(たとえば外国を旅行している)ことを信憑性をもって示す。2)間テクスト的多言語性:外国語で書かれたテクストの引用であることを示す。3)創造的遊戯的多言語性:外国語の要素を使った言葉遊びによって、母語の可能性を広げる。4)アイデンティティを支える多言語性:外国で暮らす詩人に見られる特徴で、多言語性が自己の複雑なアイデンティティを表現する手段となる。 歴史的アヴァンギャルドにおいては1)状況的多言語性と3)創造的遊戯的多言語性が典型的に見られるため、2)間テクスト的多言語性と4)アイデンティティを支える多言語性はネオ・アヴァンギャルドに特徴的なものであると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症パンデミックで2020年度中の海外渡航が不可能になり、計画していた海外での研究活動を行うことができなかったため。具体的には、海外の研究機関で資料収集を行うことができず、参加を予定していた国際学会(International Council for Central and East European Studies、モントリオール)も延期になってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、ロシア・ネオ・アヴァンギャルドの芸術実践をメタ・レベルで類型化することを試みる。具体的には、Ch. モリスの記号論的三分類と、それを芸術に応用したY. ロートマンの理論に基づき、芸術実践という記号論的現象を①意味論的な領域(言葉の意味が重要)、②統語論的な領域(語順やテクストの配置が重要)、③語用論的な領域(パフォーマンスが重要)の3つの観点から分析することによって、この3つの領域がどのようなバランスをとり、どの領域に最も重点が置かれているかを明らかにする。抽象的に分析・考察する作業が中心となるため、記号論の専門家の助言が不可欠であり、ペーター・トーロップ教授(タルトゥ大学)、カ-ル・アイマーマッハー教授(ボッフム大学)らと意見交換を行う。研究成果は論文にまとめ、海外渡航が可能な状態であれば国際学会で発表する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症パンデミックで2020年度中の海外渡航が不可能になり、外国出張がまったくできなかったため、旅費や資料調査に必要な費用(専門知識の提供に対する謝金)等が未使用になった。 2021年度は海外渡航が可能になり次第、ロシアとドイツで資料調査を行う。2022年2月に国際学会に参加するためにタルトゥ大学(エストニア)を訪問する。
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