2022 Fiscal Year Annual Research Report
Function of image in Goethe's color theory
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18K00461
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
濱中 春 法政大学, 社会学部, 教授 (00294356)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ゲーテ / ニュートン / 色彩論 / 光学 / 図像 / 科学 / 技芸 / 戯画化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、ニュートンの『光学』の図版のうちで唯一、実験者の手の図像が描きこまれている第一篇第二部の図1と、ゲーテが『色彩論』で同じ実験を自分の理論にもとづいて描いた図版XIIIとを比較した。ニュートンの光学研究のなかで描かれた他の手の図像や、『光学』における望遠鏡の反射鏡の研磨方法の記述を踏まえると、『光学』の図1に描きこまれた手の図像は、実験が科学器具の製作と同様に職人的な暗黙知を要するいとなみであることにたいするニュートンの肯定的な姿勢を示唆していると考えられる。それにたいして、ゲーテは、ニュートンの実験における手を侮蔑的にとらえるとともに、自分の図版からは手の図像を排除し、ニュートンを手品師にたとえることによって、18世紀末における実験科学の「境界画定作業」の言説をニュートンに適用して批判しているといえる。しかし、『色彩論』の図版は、それ自体が手仕事の産物であることによって、ここではイメージそのものもゲーテのニュートン批判に参入し、科学における手技の領分を主張していると結論づけた。 また、本年度は、『光学』でスペクトルを複数の円の連なりとして描いた図と、『色彩論』の図版VIIにおけるそれらの戯画化についても検討した。ゲーテはニュートンの図でスペクトルの辺の描写に用いられている点線を、太陽光を構成する単純光を完全に分離することの不可能性を意味するものと解釈し、自分の図版ではそれを誇張して再現している。ただし、『光学』の図版における点線の用い方を分析すると、ゲーテの解釈はニュートンの図の本来の意味とは相違している。しかし、ゲーテの図は、点線と実線という記号を図によって異なったコードで使い分けるという『光学』の図の意味産出のシステムを模倣した上で無効化しており、その意味でニュートンの図のパロディとみなすことができることを指摘した。
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