2019 Fiscal Year Research-status Report
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18K00464
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山本 浩司 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80267442)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アヴァンギャルド / 抒情詩 / ドイツ語圏文学 / ウィーングループ / マイレッカー / ヤンドル / 言葉遊び / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は一方でオーストリア現代アヴァンギャルド詩の読解作業、他方で現代ドイツのアヴァンギャルド詩を牽引したオスカー・パスティオールの晩年の詩ならびに翻訳詩の試みに集中的に取り組んだ。 現代オーストリアのアヴァンギャルド詩については、詩というジャンルに限定せずにアヴァンギャルドの伝統を取り入れながら更新したイェリネクやレッグラの散文や戯曲に「文学野」や「ハビトゥス」(ブルデュー)といった切り口からアプローチした。2020年3月にはウィーン文学館で資料調査を進め、共同研究者のツェルガー氏(ウィーン大学)と研究打ち合わせを行なって、今年度以降の研究計画を練り直し、対象とすべき作家と作品の絞り込みを行った。それと同時にアン・コッテン、フリーデリケ・マイレッカーら日本での研究がまだ十分とは言えない女性アヴァンギャルド作家たちに関する文献収集を進めた。 パスティオールについては、ボードレールの『悪の華』の数篇を様々な形で「寄生虫訳」(ミッシェル・セール)する詩集『シュペックトゥルム(スペクトラムをシュペック(脂肪)とトゥルム(塔)の合成語として捉え直したもの)』について2019年11月にドイツ、マルバッハ文書館で遺稿の集中的な調査を行った。それまでの段階で、6月に日本独文学会シンポジウムでヘルタ・ミュラーと翻訳との関連で、7月に日本独文学会阪神支部にてボードレール詩の寄生虫翻訳の諸相について発表した。 寄生虫訳については同様の試みをしているエルンスト・ヤンドルや最近のモニカ・リンクの試みも参照し、意味を移す逐語訳ではなく、音声的類似をてこに原詩に寄生して自己増殖を遂げる翻訳が抒情詩の創造性に寄与することを検証した。 各口頭発表はその後加筆訂正して論文にまとめた。日本独文学会シンポジウムでの発表は同学会のシンポジウム記録論集に、阪神学会での発表は神戸大学独文学会機関誌に公表される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究のインプットとアウトプットはおおむね計画通りに進展した。 これまでの成果を国内外の研究者に向けて発信するために、2019年度には5月ヘルタ・ミュラーのコラージュ詩(ドイツ学術振興会研究チーム2603、トリア大学)、6月パスティオールの寄生虫的翻訳(INSL、ローザンヌ)、ミュラーとパスティオールにおける翻訳の詩学(日本独文学会、学習院大学)、7月ミュラーのコラージュ詩(ハンブルク大学)、ヒルビヒとグラスの比較(マールバッハ文学資料館)、パスティオールの翻訳の詩学(日本独文学会阪神支部大会、神戸大学)、8月マリオン・ポッシュマン(アジアゲルマニスト会議、北海学園)について発表した。こうして年度前半は、国内外の研究者との学会の場での意見交換をするとともに、トリア、マールバッハ、ハンブルクで資料の収集にも努めた。 年度後半は研究発表に加筆訂正して論文の形にまとめることに力を傾注した。日本独文学会研究叢書、神戸大学独文学会機関誌、トリア大学研究叢書、マールバッハ研究叢書などに寄稿し、一部は年度内に公刊された。 同時にウィーン派ならびに歴史的アヴァンギャルドについては、秋以降に「アヴァンギャルドとジェンダー」に力点を置いて、テキストの精読に時間を当てた。戦後ウィーン派の周辺にいた女性作家たち(マイレッカーやゲルストゥル、さらにその遺産を継承して新機軸を出したイェリネクやアン・コッテン、カトリン・レッグラ)らの言語実験の査定を試みた。2020年3月には、計画通りに、ウィーンに研究滞在して、ウィーン文学館やウィーン大学独文科図書館で資料の収集に当たるとともに、ウィーン大学の研究者との意見交換を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は新型コロナウィルスの世界的な感染拡大によってすでに研究計画が変更を余儀なくされている。当初計画ではDAAD=早稲田の研究プロジェクトの枠組みで6月にロストック大学でワークショップを開催する予定であったが、渡航自体を中止せざるをえなくなった。プロジェクトの来年度への延期を含めて、関係機関との交渉を進めるつもりである。 3月に引き続いて夏季休暇中にウィーンにて資料調査をするとともに、春学期中に進めた成果をウィーン大学の共同研究者に示して意見交換する計画も予定通り執行できるかについても、怪しい情勢となっている。場合によっては11月もしくは12/1月にずらすことも含めて再検討する。意見の交換については、オンライン会議ツールを用いるなどして、計画変更による研究への悪影響を最低限に止めるように努める。 昨年度の口頭発表の成果を論文の形にまとめ直す作業はほぼ峠をこえたので、今年度は再びインプットを強化する。オーストリアとアメリカの共同研究者たちが二言語併記のオーストリアアヴァンギャルドアンソロジーをまもなく公刊する。これを今後の研究の基礎資料として位置づけつつ、日本のパースペクティヴを加味して独自のアンソロジーを作り翻訳を進める。上半期はこれらの準備に集中するとともに、国内外の研究者との学会の場での意見交流を通じて、問題整理を進める予定である。 2019年度に取り組んだ女性アヴァンギャルディストについて年度内に国内で口頭発表もしくは論文として発表できるように最大限の努力を重ねるつもりである。
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Causes of Carryover |
2020年度に複数回の海外出張を計画しているので、出張旅費の補填にあてるため。
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Research Products
(11 results)