2021 Fiscal Year Research-status Report
The Monadic Movement in Samuel Beckett's Literature
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18K00466
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Research Institution | Kobe Women's University |
Principal Investigator |
森 尚也 神戸女子大学, 文学部, 教授 (80166363)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ベケット / ライプニッツ / ゲーリンクス / 『クワッド』 / 『マーフィー』 / 運動 / 自由意志 / モナド |
Outline of Annual Research Achievements |
海外の図書館でのベケット草稿研究はできなかったが、本研究の骨格となる英語論文を書いた。 1 “Monadic Clocks in Samuel Beckett’s Quad: Decomposing the ‘dramatized taboo’”("Beckett and Technology")では、ベケット後期テレビ作品『クワッド』とその構想メモを分析し、メモに記された「ドラマ化されたタブー」という未解明の言葉を解読した。4人のダンサーたちにより、正方形上で反復される辺と対角線の歩行としての『クワッド』は、正方形の辺と対角線の比は自然数では表現できず、それを口外してはならないというピュタゴラス派のタブーの可視化である。すなわち『マーフィー』(1938)で言及したタブーをドラマ化したのが『クワッド』であるというのが筆者の読みである。そこでもライプニッツの予定調和における「自由意志」とゲーリンクス「意志の断念」の葛藤が重要な主題であることを抑えた。 2 "Beckett and Catastrophe"(Palgrave社、2022年出版予定)に掲載予定の"Samuel Beckett’s Catastrophic Synthesis between Leibniz and Schopenhauer"である。2021年10月に出版された"Samuel Beckett's 'Philosophy Notes'"を読んでいると、ベケットにおいてライプニッツの出会いに並んで重要なショーペンハウアーの存在が浮かび上がった。ベケットとショーペンハウアーの関係は従来から指摘されていることである。しかしノートにはショーペンハウアーとライプニッツの組み合わせベケットが注目していたことが分かり、その観点からベケット作品(『マロウンは死ぬ』、『ワット』)を中心とする政治性をめぐる論文を書いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一昨年度に続き、昨年度もコロナによる渡航制限で海外の図書館でのベケット草稿研究ができなかったため、確認できずにいるベケットのノート類が残っている。 また"Samuel Beckett and Catastrophe”で取り上げるはずだった「イメージ運動」と〈流動〉については、実績の概要に記したように、内容を変更し、ベケットとショーペンハウアーの融合という手法から、ベケットが「ホロコースト」の主題を小説『ワット』や『マロウンは死ぬ』に示唆的に書き込んでいることを指摘する論文にしたため、「イメージ運動」と〈流動〉については、別途、新たな論文で取り上げることにした。 以上の理由で、若干の遅れはあるが、ベケット研究としては、深化できたと思えているので、この遅れはポジティヴに捉えている。ただ海外での草稿研究については、今年度も実現できるかどうか不安がある。
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Strategy for Future Research Activity |
海外でのコロナ渡航制限は解除方向にあるが、まだまだ感染そのものはおさまっておらず、今年度の在外研究を行うかどうかは慎重に様子見の状態である。したがって国内で論文を書くことを中心に進めていきたい。 サミュエル・ベケットにおける〈運動〉が、ライプニッツのモナドの哲学を反映したものであることを、I 身体運動、II イメージ運動、III〈流動〉、IV闘争の主題の下に解読することを、本研究の第一目的に掲げているが、今年度はII イメージ運動、III〈流動〉の論文を書きたい。 イメージ運動としては、『名づけえぬもの』以降の散文作品、『想像力は死んだ想像せよ』、『ひとべらし役』、さらに後期小説三部作『伴侶』、『見ちがい言いちがい』、『いざ最悪の方へ』、そして最後の散文『なおのうごめき』というベケット文学の到達点ともいえる作品群が待っている。どれひとつとっても難解なテキストだが、ライプニッツのモナドロジーを踏まえ、運動、〈流動〉という視点から論じたい。
その過程でこれまで論じられていないが、思想史的に重要な射程としては、ライプニッツからゲーテ、そしてベケットへと流れるモナドロジーの系譜について書ければ良い。ゲーテ自身がライプニッツのモナドロジーを受けて「モナド」という言葉を使用しているにとどまらず、モナドを「休息も死もしらない回転運動」(三木清)として捉えている点は、ベケットの運動観に近い。それはベケット作品における〈流動〉の中心的概念になるものと予想している。
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Causes of Carryover |
一昨年度に続き、昨年度もコロナによる渡航制限で、予定していた海外の図書館でのベケット草稿研究ができなかった。英国レディング大学とアイルランドのバークリー図書館でのベケット草稿研究は、本研究の根底を支える作業であり、そこにはいまだ確認できずにいるベケットのノート類が残っている。 そのため次年度使用額が生じた。
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Remarks |
(1)は窓研究所コラム、,2021年2月17日Web掲載。 (2)は国際共著書籍で、筆者は第5章担当。2018年プラハ開催"Beckett and Technology"シンポジウム参加論文から選抜され、論集としてエディンバラ大学出版局より2021年9月に出版された。
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Research Products
(3 results)