2020 Fiscal Year Research-status Report
フランス第三共和政における文学と都市計画──ゾラとトニー・ガルニエ
Project/Area Number |
18K00472
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
彦江 智弘 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (80401686)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ゾラ / 文学と都市計画 / 労働 / ユートピア |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は新型コロナウィルス感染症が未だ収束しないため、フランスでの資料調査を行うことができなかった。そのため当初の計画からの変更を余儀なくされた。そこで国内で入手・参照可能な資料を活用して、主にゾラの『労働』を19世紀の労働観の変遷に位置づけなおす作業に取り組んだ。 このような分析において重要な視点を提供してくれたのがドミニク・メーダによる一連の研究(Le Travail. Une valeur en voie de disparition ?など)である。メーダによれば、19世紀は労働概念に大きな転換が行われた時代である。18世紀以前は否定的なニュアンスを帯びていた労働が肯定的なニュアンスを帯びるようになるのが19世紀を通じてである。その一方で、労働の置かれていた現実の状況は悲惨なものだった。そこから労働が十全な形で人間の開花と結びつくような社会の樹立が目指されることになる。労働をめぐるこのような三つのモーメントが19世紀の労働の問題を規定していた。 ゾラの『労働』において物語を構造化するのが、この三つのモーメントにほかならない。実際、『労働』の前半部において労働は不当に貶められた労働からの解放が描き出される。そしてついに実現したユートピア都市では至高の価値をもつ労働が賛美させる。このような意味で、ゾラの『労働』は19世紀的な労働観が集約された小説作品であると考えることが可能であろう。 このような観点からの分析はゾラの『労働』の読解のみならず、ガルニエの『工業都市』を考察するにあたって無視しがたい重みをもっている。実際、「工業都市」の中心にあるのは労働以外のなんであろうか。なお以上の研究上の取り組みは、次の論文として発表した。「ゾラの『労働』における労働からの解放のユートピア」『常盤台人間文化論叢』(第7号、2021年3月、p.111-128)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究を遂行する上でさらに海外での文献調査・現地調査の必要性があるが、新型コロナウィルス感染症の拡大のため、これを実施することができなかった。そのため補助事業期間延長申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間延長申請が認められたため、状況を見つつフランスでの資料調査を行い研究課題のまとめに取り組む。もしも海外渡航ができない場合は、国内で参照・入手可能な資料に基づき作業を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症が収束しないため、海外での資料調査を行うことができなかったため。補助事業期間延長申請を行った。次年度は状況を見つつフランスでの資料調査を行い研究課題のまとめに取り組む。もしも海外渡航ができない場合は、国内で参照・入手可能な文献資料に基づき作業を進める。
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[Book] 都市科学事典2021
Author(s)
横浜国立大学都市科学部
Total Pages
1052
Publisher
春風社
ISBN
9784861107344