2019 Fiscal Year Research-status Report
ウィーン・ラジオ放送の文学番組とオーストリア・ファシズムの文化政策
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18K00473
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
早川 文人 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (30724398)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラジオ放送 / 放送劇 / シュニッツラー / ウィーン / 文化政策 / RAVAG |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の構想は,1934-1938年のいわゆるオーストリア・ファシズム期のラジオ放送の文学番組やラジオ雑誌の分析を通じて,当該時代の文化政策とその実際的な影響の解明を目 指すものである。H31/R1年度は,本研究課題の研究計画に基づいて,これまでオーストリア国内で収集した当該時代の文献の整理と分析を進めた。また関連資料に対してオーストリア外の視点からのアプローチの可能性を探るべく,2019年9月にドイツ(フランクフルト,ミュンヘン)での調査に着手した。2020年3月にオーストリアで資料調査・収集と研究打ち合わせを行う予定であったが,新型肺炎感染拡大に関わる世界的情勢を鑑みて,見送ることとした。 資料分析の成果として,ウィーンのラジオ放送局(RAVAG)と文学者との関わりに注目し,20世紀初頭のウィーンを代表する作家アルトゥーア・シュニッツラー(1862-1931)に焦点をあて,1920年代後半のラジオ・メディアと文学者をめぐる状況の分析を進め,1930年代の文化状況を分析するための視座を提示した。そのさい1927年5月9日にRAVAGで放送されたシュニッツラーの作品の朗読番組に注目した。当時のザイペル政権の教権主義的文化政策の中で編成されたRAVAG文学番組に,自作が取り上げられることに対してシュニッツラーが新聞メディアを巻き込んで行った,「著作権」にかかわる作家の権利についての問題提起,および番組で朗読されたシュニッツラーの作品(『盲目のジェロニモとその兄』『レデゴンダの日記』『三回の警告』)に関する分析を,先行研究および当該時代の新聞・雑誌を手がかりに行った。これらの分析と考察は,論文「1920年代後半のラジオ放送と文学ー1927年5月9日放送のRAVAG文学番組とシュニッツラーをめぐって」(日本独文学会北陸支部『ドイツ語文化圏研究』16号)にまとめ公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H31/R1年度の進捗状況の遅れについては,新型肺炎の世界的感染拡大状況を鑑みて,2020年3月に予定していた現地調査を中止せざるを得なかったことにより,当初の計画を実行できなかったことが理由である。本研究では,分析対象となる日本では入手困難な文献の収集作業が予備的かつ根幹をなすからである。RAVAGのキーパーソンであるハンス・ニュヒテルンに関しては,文献学的に検討されていない作品群や資料が多く残されており,それらの閲覧および収集作業が重要である。また,文化機関「新生活」とラジオ文学番組との関連を軸とした資料収集も課題として残された。 一方で,1920年代における政治的保守化の文化に対する影響を分析する糸口を,シュニッツラーとRAVAGをめぐる争いに見出し,分析を進められたことは評価できる。この問題に関しては,新聞メディアの党派的性格に注目し分析するという課題を残したが,それは研究の展開と進展をもたらす契機と捉えたい。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度と同様にR2年度においても,本研究を推進するために必要不可欠な資料収集,現地調査を行う障害が発生すると予想されるので,資料分析に重点をおいて研究を進める。資料の収集,分析については,本国,海外研究者の助言を仰ぎながら進め,新規資料の収集および現地調査については今年度後半,来年度に重点的に行うこととし,本年度は現在入手している資料についての分析を,本国および海外研究者の助言を仰ぎつつ進めていくことを軸に研究を推進させていく。研究成果の一部については,学会報告および学術論文において公表していく。
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Causes of Carryover |
2020年3月10日21日までの行程で予定していた海外での資料調査及び研究打ち合わせが,新型肺炎感染流行のために行うことができなかったので,次年度使用額が生じた。2020年度夏季においても,現状では,オーストリアおよびドイツへの海外渡航が難しいと思われるので,2021年3月に現地調査および現地での研究者との研究打ち合わせが実施できるように,研究計画全体を見直す。研究を円滑に進めるための備品・機材として,ラップトップパソコン1台の購入費用にあてる。
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Research Products
(1 results)