2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
18K00476
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩塚 秀一郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (70333581)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 歩行 / 散歩 / 遊歩 / 舟旅 |
Outline of Annual Research Achievements |
歩行が批評性や創造性を生み出しうるのは、何にも縛られず自由に行き先を定めうるためだと考えうる。散歩や遊歩のもつ自由を裏面から評価することを目指し、今年度は特に経路が定められた移動に焦点を絞って考察した。ジュリアン・グラックの紀行文『狭い水路』は、ボートでエヴル川をたどる旅を記した書物である。舟旅においては、自ら主体的に動く自由が奪われているために、つまり、徹底的な受け身の状態を強いられるがために、外界からの呼びかけに敏感にならざるをえない。実際、グラックは次のように記している。「信頼のこもった切迫感をもって「呼びかけられる」という感情は我々にとって、白鳥、漕ぎ舟、石の飼い桶など、不動の水面をすべっていくお伽噺の素朴な小舟のなかに宿っているのだ」。風景からの「呼びかけ」を感受するには、猛スピードで過ぎ去る自動車は言うまでもなく、自由意志で行き先を選べる徒歩ですら適しておらず、流れのまま小舟で運ばれなければならないのである。この一節において「お伽噺」や「素朴」といった語によって含意されているのは、大人の理に勝った思考を捨ててこそ、風景からの「呼びかけ」に感応できる、という認識なのである。主体的な個人として能動的に動くのではなく、子供の受け身な姿勢で、到来する景色からの働きかけに素直に応じなくてはならないのだ。このような受け身の舟旅、外界からの「呼びかけ」に感応しやすい舟旅に対し、歩行や散歩は外界といかなる関係をとり結んでいるのか。来年度は、ジャック・レダの散文詩などを題材に考察を続ける予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
歩行のもつ自由を評価するために経路の定まった旅に考察を集中したため、歩行そのものの考察がまだ軌道にのっていない。レダ『パリの廃墟』『街路の自由』など、歩行そのものを主題とするテクストの分析を開始してはいるものの、いまだまとまった成果物を発表する段階には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
歩行をテーマとするテクスト、具体的には、レダ『パリの廃墟』、ペレック『眠る男』、ルソー『孤独な散歩者の夢想』等の考察・分析を進めるとともに、経路の定まった移動を描くフィクションの代表例として、パリ・ローマ間の鉄道旅行を描いたビュトール『心変わり』の分析も同時に進め、歩行のもつ批評性・創造性を具体的に明らかにしたい。
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Research Products
(6 results)