2020 Fiscal Year Annual Research Report
Criticism and creativity of "walking" in contemporary French literature
Project/Area Number |
18K00476
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩塚 秀一郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (70333581)
|
Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 歩行 / 都市 / 歴史的建造物 / 空き地 / 自由 |
Outline of Annual Research Achievements |
歩行の批評性と創造性の源泉は経路の自由にあると考えられる。散歩や遊歩の自由を裏面から照らし出すため、2018年度は特に経路があらかじめ定められた移動に焦点を絞って考察し、とりわけジュリアン・グラックの『狭い水路』に描かれた舟旅をとりあげた。2019年度はこの問題意識のもと、ミシェル・ビュトールの『心変わり』に描かれた鉄道旅行を歩行との対比において考察した。2020年度は『狭い水路』と対をなす都市論『ひとつの町のかたち』における歩行を、「空き地」や「モニュメント」との関連において分析した。文学者による町歩きの書を読むと、多くの場合、町の歴史が刻まれた歴史的建造物は称揚の対象となっている。ところが、グラックはそうした歴史的建造物にきわめて冷淡な態度を示している。その理由としては、グラックに特有に時間感覚があるようだ。彼は都市を単線的かつ一方向的時間のもとに置こうとするのではなく、過去と未来が対話を交わしつつともに変化しうると考えている。こうした時間感覚ゆえに、町の精華たる歴史的建造物は、単に人びとの生活から切り離された壊死部位とみなされるのみならず、現在とも未来とも没交渉のまま凝固した過去の堆積物として忌避されるのである。また、都市が生体であるとするなら、町並みの一部が取り壊されることで生じる空き地は〈傷〉に他ならず、その出現は歓迎されるべき現象ではないはずだ。にもかかわらず、グラックが都会の真ん中に出現する空き地を称揚するのは、それが煩わしい過去の堆積から解放してくれる場所であるからに他ならない。過去に感じた「予感」や未遂のままの希望は、「自由」の空間たる空き地でこそ、「新芽」として吹き出すことになるだろう。以上のように、今年度の考察から、グラックにおける都市の歩行は、時間の堆積から逃れ自由を求める営みであることを具体的に示した。
|