2019 Fiscal Year Research-status Report
The idea and practice of the "literary community", views of Mallarme's Mardis (salons on Tuesday in the rue de Rome) and his "literary fund"
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18K00477
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中畑 寛之 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (70362754)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ステファヌ・マラルメ / 19世紀末フランス / 出版 / 文芸共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度はまず、「『大鴉』、あるいは本の夢円居 ー レスクリード、マネ、マラルメ」と題した論文を『CORRESPONDANCES コレスポンダンス 北村卓教授・岩根久教授・和田章男教授退職記念論文集』(朝日出版社)に掲載することができた。エドガー・ポーの『大鴉』翻訳出版(1875年)を巡るクロニックを詳細に検討し直し、マネとともに豪華本を造るという作業、老獪な出版人レスクリードとの交渉、そして広告・献本・ポスター作成などの商業的戦略を通して、マラルメは何を学び、あるいは学ばなかったのかを考察した。このときの経験は、以後に詩人が手懸けることとなる『半獣神の午後』、『詩集』、『パージュ』といった豪華本、さらには『詩と散文のアルバム』、『詩と散文』、『ディヴァガシオン』などの普及版刊行の際にも大いに生かされたであろうと思われる。豪華本と流布版の関係についても、しばしば指摘される書物の大衆化、受容に応えた製品化などではなく、マラルメ独自の出版戦略に拠っていることを明らかにした(これは彼の奇妙な「朗読会」の経済学へと展開されるものである。つまり、豪華本とは潜在的読者たちの欲望を予め借り受けることで成立するのであり、普及版はその返済となる)。当該論文では、紙幅の都合で、お金の支払い、経費、献本先などの詳細なデータを提示して議論することは叶わなかったが、いつか加筆改稿したいと考えている。「文学基金」の発想には出版人たちと詩人の実際的関係が背景としてあるはずで、今後も具体例を検討していく。 今年度はまた、関西マラルメ研究会アルシーヴ << Mall'archives >> 再開へ向けたホームページのリニューアルに着手し、これまで発信してきた学術情報等を取りまとめ、基本設定がなんとか完成した。さらに学術情報を充実させるほか、マラルメ関連の未公刊資料の公開準備も進めていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マラルメ自らの書物刊行の現場を個別事例に分けて細かな検討を続けており、19世紀末フランスやベルギーの出版界の状況がかなり思い描けるようになってきた。つまり、「文学基金」という着想を位置づけるべき背景がより鮮明になったと言えよう。また、詩人の目論みを具体的に議論できる材料も揃いつつある。詩人の提言に対するジャーナリズムの反応については図書館に協力を仰ぎ、資料の収集を継続するつもりである。『音楽と文芸』の翻訳刊行に向けての作業もおおむね順調に進んでいると考える。 懸案の「文学基金」草稿の読解については少しずつマラルメの筆跡に慣れてきた感触が得られている。書簡などでは、幾つかのアルファベの判読が難しい場合があるとはいえ、決して読み難くはない。しかし、草稿のような着想メモの場合、文字の動きや省略に対する慣れが必要となる。繰り返し草稿の読みを検討し、『アナトールの墓』などのようなベルトラン・マルシャルやジャン=ピエール・リシャールによって転写がなされたテクストとも見比べながら、我々自身も草稿の転写を丁寧に進めていこうとしているところである。幸いにも、ジャック・ドゥーセ文学図書館がマラルメの草稿類を電子ファイルで公開してくれているので、大いに助かってはいる。 ただし、フランスでの資料収集に当てることのできる時間がなかなか確保できないという問題は改善されていない。コロナ禍によるオンライン授業の準備と開始なども含め、次年度もさらに学内業務に忙殺されることになり、研究の進展に不安があるのも確かである。 ホームページ再開についてはその目処がようやく立ち、コンテンツの充実も計れる見込みとなった。できるだけ早くリニューアルを完成させて、最新かつ詳細な情報発信をしていきたい。出版社からの献本に対する礼状一通が新たに発見されたように、これからも本課題に資する資料の発見・発掘を進めていくつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はなによりも「文学基金」草稿の読解に注力すべきであろう。2020年度中におおよその転写を済ませることを目標にしたい。そのうえで、「資料をデジタル画像化したうえで、そのデータから特定の形を抽出するパターン認識の技術を応用することによって、手書き文字(マニュスクリ)の科学的な解読法」について、技術的な諸問題も含め、そろそろ取り組まねばなるまい。日本の古文書を読み取るソフトの開発が先ごろ話題になったが、さまざまな先例に範を仰ぎつつ、実際にどのようなことが可能なのか教えを請う必要もあると考えている。手許にはマラルメ書簡などの自筆稿も幾つか集まってきているので、それらを用いて実際に手書き文字の読取り技術を工夫していくことになろう。 「文学基金」を巡っては、「『フィガロ』紙で2度にわたって掲載されたアンケートのうち、それに応じた三人の出版人の言説を中心に分析を行い、論文をまとめたい」とした2019年度の課題が未了なので、まずはこれを仕上げてしまいたい。己れの提言に対する反響を詩人は大いに気にしていた。いわば、彼はテクストの効果をつねに意識し、読者の反応を確認してもいたのだ。このような側面からマラルメのテクストを読み直す作業を行うことは、「行為」としてのエクリチュールを改めて考察し、問うことになるだろう。 また、2020年度もひき続きマラルメ自身の出版活動を詳細に再検討する。『半獣神の午後』を出したアルフォンス・ドゥレンヌ、『詩と散文』や『音楽と文芸』のポール・ペラン、あるいはブリュッセルの出版社エドモン・ドマンあたりを候補に考えている。個人的には普及版上梓の例を確認しておきたいので、そろそろペランを扱っておきたいのだが、必要な資料が充分に揃うかどうかという問題がやはりある。したがって、今後も資料の収集にはしっかり力を入れ、充分な時間を割いていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度も、昨年度同様、フランスでの資料調査・資料収集のためだけに予算を使用することになった(40万円)。次年度使用額が生じた理由は、設備備品費・消耗品費を所属大学の研究費などで賄い、必要な古書や資料が今後見つかる可能性に期待して、わずかでも予算を残すことにしたためである。フランスにおける研究滞在は外国文学研究者としては欠かせないと考えており、海外旅費を優先させた。 研究にあたって必要不可欠な資料・書籍類に関しては、今のところそのつど私費で購入しており、本研究に支障はでないようにしている。
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Research Products
(2 results)