2020 Fiscal Year Research-status Report
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18K00480
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
金澤 忠信 香川大学, 経済学部, 教授 (20507925)
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Project Period (FY) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ソシュール / 伝説・神話研究 / 歴史比較言語学 / ニーベルンゲン / トリスタンとイゾルデ / ゲルマン英雄伝説 / ギリシア神話 / 記号論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールが19世紀末から20世紀初めに行った古代ギリシア・ローマ神話、中世英雄伝説、北欧神話に関する研究の動機、方法論、目的を未公刊の手稿から読み取り、同時期に行っていた歴史比較言語学、一般言語学、アナグラム研究との関連性において明らかにするというものである。 2年目までは中世英雄叙事詩、北欧神話、ギリシア神話に関する書籍、古典語・古語の辞書、ゲルマン諸国家に関する歴史書などを購入した。 2018年5月から7月にかけて、香川大学地域連携・生涯学習センターにおいて、ソシュールの伝説・神話研究をテーマにした一般向け公開講座を担当した。2018年8月に2週間ジュネーヴに滞在し、ジュネーヴ図書館(BGE)所蔵のソシュールの手稿・書簡および伝説・神話研究関係の資料を収集した。ソシュールの手稿はデジタルデータ(TIF)の形でジュネーヴ図書館で購入した。また、2019年8月末から9月初めにかけて、前年に収集しきれなかった手稿資料をジュネーヴ図書館で調査し、購入した。特にアメデ・ティエリのアッティラ研究に関する手稿を見つけることができ、論文にまとめた。 2020年度はこれまでの研究をまとめ、著書を刊行する予定であったが、新型コロナウイルス感染症への対応(大学での感染症対策、遠隔配信授業の準備など)に追われたこと、日本フランス語フランス文学会中国・四国支部長を務めたこと、また勤務先の異動があったことにより、研究に従事する時間が十分に取れなかった。日本フランス語フランス文学会2021年度秋季大会での研究発表も準備が間に合わず断念したが、中国・四国支部大会(オンライン開催)で発表し、それをもとにした論文が支部会誌に掲載される(2021年6月刊行予定)。 2021年度は、研究期間を1年延長し、研究成果をまとめる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ジュネーヴ図書館に収蔵されているソシュールの伝説・神話研究関連の草稿のうち、初年度に資料番号Ms. fr. 3958(1,063ファイル)およびMs. fr. 3959(1,056ファイル)をTIF形式で入手した。2年目は、1996年にジュネーヴのソシュール家で発見された比較的新しい資料を中心に収集・購入した(Archives de Saussure 368/1, 374/2, 374/3, 375/1, 382/7, 382/9, 383/13, 384/3, 384/9, 396/3)。 収集した資料のうち、歴史学者アメデ・ティエリ(1797-1873)『アッティラとその後継者たちの歴史』に関する手稿から、過去についての主観的想像の排除および過去における客観的事実の検証という、「歴史」に対するソシュールの一貫した研究姿勢を読み取ることができた。ソシュールはティエリを援用しながら、年代記が伝説の基盤になっていると想定し、トゥールのグレゴリウス『フランク史』に『ニーベルンゲンの歌』の原型を見出す。伝説は歴史(イストワール)にもとづくというソシュールの伝説・神話研究の前提条件かつ最終的結論を「ソシュールの伝説・神話研究における歴史の概念」(『香川大学経済論叢』第92巻第3号、2019年12月)において公表した。 2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、予定していた研究成果をあげることはできなかったが、「歴史と伝説──ソシュールの伝説・神話研究」(日本フランス語フランス文学会中国・四国支部会誌『フランス文学』第33号、2021年6月刊行予定)において、ソシュールの伝説・神話研究の位置づけ、その方法論および目的について検証・解説したうえで、現代フランスの歴史学および文学研究と比較しながら、ソシュール伝説・神話研究の現代性について論じた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2018・2019年度にジュネーヴ図書館で収集した2,000枚以上の手稿資料(TIFファイル)の読解作業をできるだけ早く完遂する。『ニーベルンゲンの歌』研究に関しては一つの論文としてまとめたが、『トリスタンとイゾルデ』やギリシア神話(特にテーセウス)などに関しては、歴史的事実(年代記)と照合するかたちで検証することが原理上不可能であるため、ソシュール自身も『ニーベルンゲンの歌』研究と同様の方法論をとるべきかどうか逡巡しているふしがある。いずれにしても、ソシュールが伝説・神話研究において取り扱っている「細部」のデータは膨大であり、しかもソシュール自身まとめきれなかったそれら「細部」の比較・対照作業を、ソシュールを引き継ぐかたちで、仕上げる必要がある。ギリシア語、ラテン語、ゴート語などで書かれた伝説・神話の原典を参照するには、研究書や辞典・辞書をもう少し買い揃える必要がある。 本研究は、ソシュールの伝説・神話研究について、20世紀の知的枠組みからいったん切り離すかたちで考察を始めたが、やはり記号論あるいは構造主義との関連性において論じないわけにはいかないだろう。そのために、ウラジーミル・プロップ、マックス・リュティ、クロード・レヴィ=ストロースなどの伝説・神話研究との比較検討も行う。また、研究の過程で、現代フランスの歴史学および文学研究との比較によって、ソシュールの伝説・神話研究の特徴が浮き彫りとなることが判明したため、この方向でも議論を進めていくつもりである。これについて、最終的には、前回の科学研究費補助金(2013~2015年度基盤研究(C)「19世紀末におけるソシュールの政治思想についての文献学的研究」課題番号25370087)によって究明したソシュールの政治的言説と、伝説・神話研究とを並置するかたちで論じることになる。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウイルス感染症への対応で研究を予定どおり進めることができず、研究期間を1年間延長した。学会発表を1回行ったが、オンライン開催だったため、旅費がかからなかった。延長期間の2021年度は、残りの研究費を使って、なお必要な伝説・神話関連図書(原典、研究書、辞典・辞書)を購入し、著書の刊行を目指す。
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